国民皆保険の光と闇
先日ADAURA試験に関するあるドクターのコメントの中で、“OSについてもosimertinib群で優位な延長効果を示す可能性は高いが、それはosimertinibの効果だけが勝因ではない。次治療がばらつき比較対象群のOSが伸び悩むことも考慮する必要がある。”という意見を聞いた。確かに、臨床試験においてはPD・再発後の次治療まで詳しく規定されておらず、国ごとに薬剤の使用状況や医師・患者の個々の判断の影響を受けざるを得ない。改めてOS評価の難しさを実感させられる。果たして日本人集団でのADAURA の長期フォローアップの結果はどうなるのだろうか。
治験薬以降の次治療のばらつき…この話を聞きふと先日JJCOから出ていた下記文献を思い出した。
Goto et al, JJCO 2022 “Performance of Japanese patients in registrational studies”
全体解析でpositiveな結果が出たにもかかわらず、日本人集団ではOSに大きな差が見られていない従来の試験(最も有名な例はFLAURAだろう…)に関して、文献の中では「プロトコール後の治療が日本と海外で異なっていた可能性がある。」と考察されている。
日本のように、承認された薬剤がすべて無条件に保険償還される国は珍しい。常に最新薬が比較的低い自己負担額で使える日本においては、ほぼ全症で最適な次治療が施され、海外と比較し良好なOSの結果が得られたという訳である。
更に日本では、別の文献にもある通り、後治療でIOやTKIが何度でも無制限に保険診療の範囲内で使うことができる。ある薬剤に対して耐性化後、同じクラスの薬剤の再投与によって治療をつなげていくケースも少なくなく、これも日本人集団における良好なOSに寄与していると考えられる。
Horiniuchi H et al. JTO 2022 “Lung Cancer in Japan”
国ごとの承認や保険償還の状況の差は、次々と新しい治療薬が登場する肺がん領域においては、無視できない状況であることは間違いない。
冒頭にも書いたADAURAを含め、今後術後アジュバント療法のOSのデータを検討するうえでは、再発後の治療法まで考慮する必要があるだろう。
そして、今後も新規の(そして高価な!)薬剤が承認されていくこと考えると、承認と保険償還がセットになった日本の特殊なシステムに疑問を感じずにはいられない。最新の薬剤を平等に誰もが使える、といえば聞こえがいいが、だからこそ新薬導入の際には、日本の実臨床におけるベネフィットをよりいっそう慎重に判断すべきではないだろうか。そしてもう一つ、新規の薬剤が保険償還される度に、医療経済への負担は確実に大きくなっていくことも忘れてはならないだろう。
ある先生のひとことから、OSというエンドポイントの評価の複雑さ、そしてその背景にある地域ごとの薬剤使用状況のばらつき、日本の保険制度の危うさ等、様々に思いを巡らせた一日であった。