Un"TIL"バイオマーカーへの道のり

2016年12月、初回化学療法後のNSCLC治療薬として初めてのICIとなる抗PD-1抗体nivolumabが承認された。そのちょうど1年後となる2017年12月には、腫瘍PD-L1発現をバイオマーカーとしてpembrolizumabが初回治療で使えるようになった。それから現在に至るまで製薬企業を含む多くの研究者が精力的にICIのバイオマーカー関連の研究開発に注力してきたものの、残念ながらNSCLCでは腫瘍PD-L1が唯一のバイオマーカーとして実臨床にて応用されている状況である。

バイオマーカー関連で最も有名な論文の一つ(と自身は思っている)Topalian SL et al. Nat Rev Cancer 2016では、PD-L1に加えて遺伝子変異量(いわゆるTMB)やCD8 TIL密度の重要性についても言及している。今回はIV期NSCLCの患者におけるCD8 TILのバイオマーカーとしての可能性を示したHummelink K et al. Clin Cancer Res 2022の報告について簡単に紹介したい。

この報告に先駆けて同研究グループは2018年に ”PD-1T TIL” と呼ばれるPD-1を高発現するユニークな腫瘍浸潤CD8 TILのサブ集団を特定している(Thommen DS et al. Nat Med 2018)。このサブ集団は、TIGITやLAG-3など他のチェックポイント分子も高発現していることから疲弊状態ではあるものの、腫瘍認識能力を有するクローナリティーの高いCD8 T細胞である。治療前の生検検体中にこのサブ集団が多く認められる(高密度)症例では抗PD-1抗体による治療がよく奏効することを発見した。今回この細胞集団の密度とICIの治療効果との関連を評価すべく、2次治療移行に抗PD-1抗体の単剤治療を受けたIV期NSCLC患者120例についてレトロスペクティブに検証した。

当初の仮説どおりベースライン時の腫瘍組織検体中の”PD-1T TIL”密度が低い患者と比較して、”PD-1T TIL”の密度が高い患者ではICIの治療効果(6または12か月後の疾患コントロールおよびPFS/OS)が有意に高かった。そのため、局所の”PD-1T TIL”密度はIV期NSCLC患者においてICI治療の臨床的有用性を予測するバイオマーカーとなりうることが示唆された。

腫瘍部位に”PD-1T TIL”が存在するということは、腫瘍特異的T細胞応答が実際に起こったことを示唆しており、腫瘍がPD-1/PD-L1軸を介した免疫逃避メカニズムを利用して獲得耐性を得ている可能性が高い。一方、腫瘍に”PD-1T TIL”が存在しない場合、腫瘍特異的T細胞集団の欠如、つまりICIの奏効が期待しにくいimmune dessertもしくはimmune excludedな状況が考えられる。

本報告での”PD-1T TIL”のバイオマーカーとしての可能性に関して、個人的に注目した点は以下である。
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1) 6か月時点に比べ、12カ月時点の方が当該バイオマーカーの感度/特異度がより鋭敏となったこと
2) 腫瘍PD-L1発現やTLS(三次リンパ構造)の有無といった他のバイオマーカーよりも効果予測の精度が優れていたこと、またこれら他のバイオマーカーとの組み合わせよりも”PD-1T TIL”単独の予測性能が優れていたこと
3) 抗PD-1抗体による治療が有効でない患者群を高い精度で特定できること
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これまでに報告されている複数のICI単剤の臨床試験PFSデータから判断するに、いわゆるICIに特有なtail plateauは12カ月以降から観察されている。そのため、個人的には上記1)にある6か月よりも12カ月時点の感度/特異度が高かった点は、ICIのバイオマーカーとしてより説得力が増すものと思われる。また、3)の治療前組織検体中の”PD-1T TIL”密度が低い患者では抗PD-1抗体の治療効果がほとんど認められず、12カ月時点での陰性的中率(NPV)が98%であった(感度・特異度に関してはこちらの記事を参照されたい)。ICI有効例の取りこぼしを少なくできる可能性が高い点がバイオマーカーとしての"PD-1T TIL"の最大のベネフィットと言えるだろう。

最後に、本研究のlimitationは以下である。
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1) レトロスペクティブ解析であること
2) NSCLCのみでの検証であること(他がん腫でも同様か?)
3) “PD-1T TIL”測定手法(デジタル定量化とそれに付随するマニュアル作業が必要)
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今後、大規模な前向き検証試験の実施や他がん腫での検証など実臨床への応用に向けた課題があるだろう。また、PD-L1検査のように、測定方法の標準化や簡便なスクリーニングが可能となれば、PD-L1以上に有望なバイオマーカーとして普及される日が来るかもしれない?!

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