切除不能III期ALK陽性肺がんに対する最適な地固め療法:ICIよりTKIを優先すべき?
切除不能III期のNSCLCに関しては、ドライバー変異の有無に関わらず長らくICI(PACIFICレジメン)が使われてきた。しかし、過去にはIV期ドライバー変異陽性NSCLCに対するICIの治療効果が乏しいこと(Mazieres J et al. Ann Oncol 2019)、最近のEGFR変異陽性例に対するADAURA試験(Wu YL et al. NEJM 2020)やALK転座陽性例に対するALINA試験(Wu YL et al. NEJM 2024)、さらに直接的なエビデンスとして今年のASCOでLAURA試験(Lu S et al. N Engl J Med 2024)の結果が出たことで、当該病期でもドライバー変異陽性に対してはICIよりもTKIを優先すべきかどうかという議論が出てきた。
そして先日、ALK陽性例に対するCRT後の地固め療法として、ICIかTKIかを比較した後ろ向き解析が報告された(Nassar AH et al. J Thorac Oncol 2024)。同報告ではPACIFICレジメンと比較して、CRT後のALK‐TKIを実施した症例において、有意なPFSおよびOSの延長効果が認められている。
今回使っているTKIの大部分(n=10/15)はAlectinibであるが、CROWN試験において頭蓋内制御能を含めた高い効果が認められているLorlatinib(Solomon BJ et al. J Clin Oncol 2024)を使った場合、更に高い効果が期待できるかもしれない。
しかしながら、この結果をもってドライバー変異陽性症例にCRT後にシークエンシャルに分子標的薬を優先すべきと言えるだろうか?
以下、二つの理由から時期尚早と考えられる。
まず一つ目は、毒性の観点である。同解析において、TKIの方が有害事象で治療を中止する割合が高い、という結果が出ている。皮肉なことに、予後が延びるほどより長い服薬が必要となるため、いくら重篤でないとしても、QoLに影響を及ぼす副作用は無視できないだろう。
関連して、一般的にICIは1年なり2年で治療完遂した後、再発率は時間が経つにつれ低下する傾向にあるため、フォローアップの定期検査の頻度も徐々に間隔を空けるといったことが可能となる。一方、TKI治療は継続的な服用が基本となり、耐性化のリスクを鑑みて定期フォローアップが基本となるだろう。経済毒性だけでなく、フォローアップやAEマネジメントによる通院といった時間毒性も含めた評価が必要だろう。
二点目は、TKI毎の効果の違いの観点である。今回のALK-TKIによる良好な成績は、進行期における過去のレビューを思い出す(Wang M et al. Nat Med 2021)。複数の試験の統合解析結果によると、ALK陽例に対するALK-TKIは、ドライバー変異陰性例に対して持続的な効果が期待できるICIよりも、更にOS改善効果が高いことが示唆されている。つまり今回の切除不能III期症例に対するTKIの良好な成績も、ALKだからこそ実現できた結果であり、すべてのTKIに一般化できることではないかもしれない。
もうひとつ今後のCQとなるのが、CRT直後からTKIをやるか、それとも先にICI(PACIFICレジメン)を1年間行って病勢進行(増悪)後にTKIをやるか*、という問題だろう。今回の報告(Nassar AH et al. J Thorac Oncol 2024)でも、CRT後のICIの有意な効果が認められており、ICI後の次治療の約8割がALK-TKIだったという結果から、PACIFICレジメン→TKIという従来の治療シーケンスの可能性を追求する価値も依然としてありそうだ。
最後に、今回の報告は後ろ向き解析であり、ALK遺伝子検査のタイミングや方法にもばらつきがあると思われる。CRT後のICI vs. TKIという直接的な比較検討が難しい現状を考えると、切除不能III期ドライバー変異陽性NSCLCに対する適切な遺伝子検査のタイミングや治療シーケンスが確立されるのは、もう少し先になりそうだ。
*ICI→TKIという治療シーケンスの可能性に関しては、切除不能III期EGFR陽性NSCLCに対するPACIFICレジメンの国内リアルワールド後ろ向き解析研究となるHOT2101(Tsuji K et al. Cancer Sci 2024)やNEJ063試験も参考になるかもしれない。その結果、ICIによるPFS改善効果が認められ、更に次治療としてEGFR-TKIを安全に実施できていたことが明らかとなった。
現時点では、ALKとEGFR以外のデータはないが、ドライバー変異陽性NSCLCにICIを使える唯一のチャンスとも言えるPACIFICレジメンの可能性は、もう少し検討の余地がありそうだ。