肺がんにおける術後アジュバントosimertinibの実施に賛成?反対?

CTONG1104、IMPACT、ADAURA等の試験結果を踏まえ、EGFR-TKIが術後治療の選択肢として実臨床で承認される日も近いと予想される。
ここではまずADAURAの結果を踏まえ、今最も承認が近いと予想されるosimertinibの術後アジュバント使用に関するpros&consのエビデンスをまとめていく。

[賛成派] Stronger & Earlier is the best!?

1. 主要評価項目(ステージII-IIIA症例のDFS)HR = 0.17

再発/死亡リスク83%減の達成、さらにはITT(ステージIB含む)でも80%減という目覚ましい成績は、術後アジュバントでEGFR-TKIを使用すべき最も強い根拠/エビデンスと言える(Wu YL et al, NEJM 2020)。

2. 転移抑制効果

転移全般を約1/4に抑制(11% vs. 46%)、さらには脳転移を含むCNS転移や死亡を1/5に抑制(2% vs. 11%)Wu YL et al, NEJM 2020)。

QoLに関しては96週までの比較で両群間での臨床的な違い無し(Majem M et al, abst#OA06.03 @ WCLC 2020)。TKI服薬に付随したAE発現等によるQoL低下は認められないことが示唆される。

3. 低いAE発現

→ 追跡期間中央値 = 22ヶ月時点で未だ61%が治療継続中であり、グレード3以上のAE発現率 = 20%であった。うち、11%がAEによる服薬中断へと至っている。

第3世代TKIは第1/2世代と比べて比較的AE発現がマイルドであり、より長期的な服薬が可能 = より長期的な服薬によってOS延長の可能性が示唆され(後述の4を参照)、術後アジュバント治療として第1/2世代以上に適したTKIと言える?

4. 長い服薬期間(服薬期間中央値 = 22.5ヶ月)

→ ADJUVANT-CTONG1104試験のITT解析ではDFS/OSのHR = 0.56/0.92であったが、EGFR-TKIを18ヶ月以上継続して服薬できた症例のみ抽出したpost hoc解析ではOSのHR = 0.38と改善傾向を認めた(Wu YL et al, abst#9005 @ ASCO 2020)。

ADAURA試験では追跡期間中央値の22ヶ月時点において61%が服薬を継続しているため、CTONG1104でのpost hoc解析のようにOS延長が期待できる可能性が考えられる。

Limitations

  1. CTONG1104では比較対照群はBSC(化学療法無し)
  2. プロトコール上の服薬期間の違い(2年 vs 3年)

5. より多くの患者がTKI治療を受けられるチャンスあり

→ 再発PD後に必ずしも全員がTKI治療の恩恵を受けられない。

例:ADJUVANT-CTONG1104では、比較対象群の約半数で再発PD後にTKI治療が受けられず = OSの成績に影響(対照群で後治療としてTKI以外の治療を受けた集団 vs TKI治療を受けた集団の中央値 = 49.5ヶ月 vs 62.8ヶ月:Wu YL et al, abst#9005 @ ASCO 2020

いかがだろうか。
3年間の服薬によって寛解が得られるのか?というClinical Questionはあるものの、少なくともCNSを含む転移・再発までの時間を延長する(つまり肉眼的ながんが無い = Disease-free)というメリットは、毒性というリスクに対してポジティブなトレードオフとなる可能性が高いと思われる。
さらに特筆すべきは、当該試験によって早期NSCLCにおけるドライバー検査の礎を築いたことである。EGFRだけでなく、IV期で開発が進む他のドライバー変異に対する早期検査の重要性も評価、検討するマイルストーンとなった点は大きい。
実臨床での使用に向け、今後も様々なディスカッションが続くと予想される。
この記事を読んで少しでも思うところがあれば、ぜひとも意見を共有していただけば幸いである。

[反対派] The last card should NOT be used first!!?

1. 生存期間延長に繋がるエビデンスは存在しない

過去のTKI関連の治験において、DFSのベネフィットがOSにトランスレートされた例がない。早期TKI介入群と再発後からのTKI介入群で比較できるデータがないため判断が難しいが、再発後すぐにTKIを介しるれば十分という考え方もできる。

→DFS延長効果に関しては、これまでに類を見ないベネフィットが得られたADAURAであるが、今後のOSやPFS2のデータが待たれる。

2. 完治症例割合が改善されるかどうかは現時点では不明

術後アジュバントの最終目的は、術後の残存病変を根絶し、完治につなげることである。しかしながら、TKIはIV期の経験を踏まえて考えると、TKIはドライバー変異腫瘍を根絶できる薬剤ではなく、投与を中断すると必ず再増悪してくる。つまり、術後アジュバント療法においても、腫瘍をコントロールできるのはTKIを服用している間だけである可能性も高い。

→現時点では完治に繋がるかどうかは不明であり、ADAURA試験において、3年間の服用終了後の長期フォローデータをみていく必要がある。

3. 長期服薬によるAEリスク

ADAURA試験における有害事象や発現率に関しては、転移性EGFRmのNSCLC患者さんを対象にしたこれまでの試験のものと類似している。また、グレード3以上となる有害事象の発生率は、osimertinib群で20%、比較対象群で13%であり、致死的なものは出ていない。
(Wu et al. N Engl J Med. 2020)
しかしながら、手術を終えてから更に3年間毎日服薬する患者にとって、長期間持続するAEは、たとえ低グレードのAEであってもQoLの低下につながる懸念があるのではないか。これが不要な治療である可能性があるのであれば、尚更問題であると思う。

4. 医療費(患者負担を含む)の問題

 治療決定に費用の問題を持ち込んではいけないかもしれないが、術後症例全例にTKIを使用するとなると、やはり医療費は無視できない問題となる。例えばosimertinibを例にとると、USでは1日(80mg/tablet)$ 608、1ヶ月あたり約 $18,000(200万円)、3年間で7,200万円となる。

→上記1-3で述べた通り、TKIを使用する長期的なメリットのエビデンスが不足している現時点では、AE発現や医療費負担のリスクも、治療選択において考慮すべき重要因子である。

5. 再発後の治療エビデンスの不足

CTONG1104試験ではgefi群の約40%がPD後の次治療で再度TKIが入っており(うち約6割が1G TKI)、OSへのポジティブなインパクトにつながっている。一方、最初に実臨床に入ってくるであろうADAURA試験に関しては、Osimertinib耐性後の次治療オプションが限定的である。

→osime後の1/2G TKI治療オプションも含め、後治療の選択肢の検討が必要である。

いかがだろうか。
他にも、術後アジュバントにTKIが導入されることにより、遺伝子検査のタイミングや保険の在り方の見直しなどが課題となることが考えられる。
また、TKIを使用るるメリットがIB-IIIA期全例に同等という訳ではないため、ベネフィットが最大化される患者選択の議論が重要である。
実臨床での使用に向け、今後も様々なディスカッションが続くと予想される。
この記事を読んで少しでも思うところがあれば、ぜひご意見を共有していただけると嬉しい。

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