肺がんにおける術後アジュバント療法、免疫チェックポイント阻害剤は誰に使う?

昨今、ADAURA試験との対比という意味においても周術期ICI治療が活発に議論されるようになってきた。
術後アジュバントICI治療としてのIMpower010試験の結果を受け、実臨床で承認される日も近いと思われる。
そこで、術後アジュバント治療としてICIが実臨床においてどう使われていくのか、最新のエビデンスをもとに考えていきたい。

IMpower010の結果から考えてみる

1. 病期(ステージ)

本試験ではUICCのTNM分類第7版によるステージIB (T ≧ 4cm)-IIIAの完全切除NSCLCの症例がエントリー対象となっている。
ステージIB症例では、BSC群との比較においてDFSハザード比1.01と術後アジュバント化学療法後atezolizumab治療ベネフィットが乏しいことが示唆された(Felip et al. Lancet. 2021)。

なお、本試験の主要評価項目腫瘍PD-L1発現1%以上(SP263 IHC評価)のステージII*-IIIAにおけるDFS評価であった。今回は適応外となったステージIBの症例数は試験全体の12-13%程度であった。

2021年10月15日に上述の主要評価項目として設定されたPD-L1+のステージII*-IIIAの症例を適応対象として米国FDAは当該レジメンを承認した(FDA Resources for Info/Approved Drugs)。果たして国内の適応対象はどうなるのか?そして最適使用推進ガイドラインでの縛りは?

* UICC分類第7版のT2b(≧ 5cm) N0またはT1N1以上)

2. 腫瘍PD-L1発現

SP263によるIHC評価において、TC < 1%群ではDFSハザード比0.97と術後アジュバント化学療法後のatezolizumab治療介入ベネフィットが乏しいことが示唆された(Felip et al. Lancet. 2021)。

一方、TC > 1%群のハザード比は0.66と良好に見えるが、TC 1-49%群と≧ 50%群とに分けたサブ解析のハザード比は0.87、0.43という結果であった。

以上の結果から、TC < 1%の症例では、① DFSベネフィットが乏しいこと、② 主要評価項目の対象外であること、から術後アジュバント化学療法後のatezolizumab治療オプションは選択外となるだろう。
一方、1-49%の症例は、少なくともPD-L1発現ステータスのみの情報から治療の是非はClinical Questionであろう。

なお本試験では、患者エントリー時の層別化にはSP142、有効性解析ではSP263のIHCの評価に基づいてそれぞれ解析を行なっている点や、非盲検試験であることが研究のLimitationである。

3. ドライバー変異の有無

ドライバー変異に対する術後アジュバントICI治療について前向きに検討した臨床データは現時点では存在しない。

ただし、術後アジュバントICI治療を検討したIMpower010試験のサブ解析の中では、ドライバー変異の有無によるDFSのハザード比も発表された。(Felip et al. Lancet. 2021)結論としては、EGFR変異症例(43例)のハザード比はEGFR wild typeの症例とほぼ変わらない結果となり、atesolizumabの有効性が示唆された。一方ALK症例(23例)に関しては、ハザード比の95%CIが1をまたぐ結果となった。

既にFDAでは、ステージII-IIIAのNSCLCにおける術後アジュバント療法として、2021年10月15日にatezolizumabを承認している。使用条件としては、PD-L1の発現率が1%以上であることだけであるため、ドライバー変異症例に対しても使用することは可能である。
(FDAの公式サイトの中の『Resources for Information|Approved Drugs 』より)

これらの結果を受け、ドライバー変異を有する術後アジュバントICIの治療対象はどう判断されていくのだろうか?
特にEGFR変異症例においては、TKIの術後アジュバント治療も検討されているが、そもそもドライバー変異の有無で、TKIとICIの使用を単純に棲み分けて良いものだろうか?
ORRとOS延長、異なるメリットを持つ治療薬をどう選択していくのか、今後のエビデンス次第でも変わってくる
と個人的には考えている。
実際、既にドライバー変異陽性に対する術後アジュバントICI治療の効果を検討した初めての試験として、WJOG11719L /ADJUST試験(完全切除、病理病期II-IIIA期のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんに対するプラチナ併用療法+アテゾリズマブ術後補助化学療法の有効性および安全性を探索する多施設共同第II相試験)も進行中であり、その結果が待たれる。
また、周術期においてTKIを使うためには、遺伝子検査が必要となるため、遺伝子検査のタイミングや検査体制など新たな課題が生じてくるだろう。

4. 術後のctDNA status

術後アジュバント療法におけるMRD解析の意義は様々であるが、尿路上皮がんにおける術後アジュバント治療の必要性の判断の観点から、昨年のNatureに報告が出ている。(Powles et al. Nature. 2021)術後にctDNAが陽性であった症例においてatezolizumabによるアジュバント効果が示され、治療後のctDNA消失はOSの改善と創刊していた。一方術後にctDNAが陰性であった症例では、術後atezolizumab投与群と対象群(無治療)とで有意な差が出なかった。

また、大腸がんにおいてもリキッドバイオプシー解析が先行しており、『CIRCULATE-Japan』のプロジェクトの一環で、観察研究であるGALAXY試験とそれに付随する二つのランダム化第3相試験*にて、術後の個別化医療の検討が進行中である。(Taniguchi et al. Cancer Sci. 2021

*術後アジュバント治療の必要性の判断の試験として
1、ctDNA陽性の再発リスクの高い患者集団に対して治療介入の有効性を検討するVEGA試験
2、ctDNA陰性症例に対しては、ctDNAをモニタリングしつつ治療を省略の可能性を検討するALTAIR試験
の二つの試験が進行中。

ctDNAの解析は、術後の再発リスクの予測及び術後アジュバントの必要性を判断すること、また術後アジュバント治療の効果や再発をモニタリングすることへの応用が期待できる。

そして肺がんでは…
IMpower010において、術後のctDNA statusとDFSとの相関のデータが2021年のESMO-IOで発表された。多癌腫の報告同様に術後ctDNA陽性症例において、術後アジュバント治療によるDFSの延長が見られている。しかしながら今回の報告では、ctDNA陰性症例においても、(ハザード比の95%CIがぎりぎり1を跨がずに)術後アジュバント治療によるDFSの有意な延長が見られた。
Zhou et al. Annals of Oncology. Vol.32 Supplemental 7. 2021

肺がんの術後アジュバント治療におけるctDNA解析を検討した報告は現時点では他にないが、現在進行中のMERMAID-1試験及びMERMAID-2試験の中で、ctDNA解析によるMRD statusと術後アジュバントICI治療の有用性に関しても検討されることになっており、結果が待たれるところである。

5. 所属リンパ節転移の有無

上記1. 病期(ステージ)にも関連するが、本試験ではN0 vs N+(N1+N2)でDFSハザード比はそれぞれ約0.9 vs 約0.6であり、N+症例で特に術後アジュバントatezolizumab治療によるベネフィットが示唆された。

これはTNM分類上では所属リンパ節転移が無いIB-IIA期よりも、同側の肺門、肺内リンパ節転移(N1)や縦隔リンパ節転移(N2)を認めて病期がより進んだIIB-IIIA期で術後アジュバントIO治療の効果があることが示唆される(少なくともBSC群では早期にDFSイベントが起こるが、atezolizumab投与によりDFS延長が期待できる可能性あり)。

リンパ節転移を認めるN+症例では、より全身性に微小転移が拡がっている可能性が考えられ、① DFSイベントが早期に起こりやすいこと、② 術後atezolizumab治療によって残存病変に対する抗腫瘍効果が期待できること、など幾つか仮説を立てることができるが、今後ICI治療によるリンパ節の意義や抗腫瘍免疫における役割など基礎IOの観点からの考察も重要となるだろう。

6. 喫煙歴

現喫煙者のみDFSハザード比が約1.25とBSC群にfavorとなっているが、症例数が75例と少ない点に注意が必要である。ただし、既報データでは一般的に喫煙者(現喫煙者+前喫煙者)の方が治療ラインに関わらずICIのベネフィットが高いことが示唆されており(Zhao W et al, Front Oncol 2021など)、本試験での現喫煙者では逆のシグナルが得られた点は特筆すべきだろう。

一方、非喫煙者と前喫煙者のハザード比はatezolizumab上乗せ群で0.5-0.6であった(ただしPD-L1 < 1%を含むITT集団では非喫煙者で1.13と逆転)。

早期NSCLC症例における喫煙歴とICIの有効性との関連について現状では明確なエビデンスが乏しく、今後、類似試験のエビデンスや基礎IOの観点からも注視したい。

7. 術後アジュバント化学療法の施行可否

本試験のプロトコールでは術後アジュバントとして1-4サイクルのプラチナ化学療法を実施した症例がエントリー対象となっていた。また、ほとんど(全体の約8割以上)の症例で4サイクルのプラチナ併用療法(CDDP+DTX, CDDP+GEM, CDDP+VNR, CDDP+PEMいずれか)が施行されていた。

これを受け、FDA承認も”プラチナ併用療法施行後”という条件がPI(添付文書)に記載されている。

実臨床ではCDDPが使えない症例(例:腎機能低下、75歳以上)も一定数存在するため、いわゆる”chemo-free”の術後アジュバントIO治療の開発も期待される。

8. 外科手術の術式

本試験では肺全摘術(pneumonectomy)または肺葉切除術(lobectomy/sleeve lobectomy/bilobectomy)された症例がエントリー対象となっており、それぞれ約15%、85%(うち二葉切除術は約5%)であった。

肺葉切除術ではDFSハザード比0.6-0.8と有意にatezolizumab群にfavorであったが、肺全摘術と二葉切除では0.8-1.0であった(ただし上述のとおり症例数が少ないことに注意)。

国内ではステージIB-IIIA症例の術式として肺葉切除術が主流と思われ、最近報告のあったJIPANG試験(Kenmotsu H et al, J Clin Oncol 2020)でも98.5%が肺葉切除術(残り1.5%が肺全摘術)を受けていたこと、2010年の肺癌登録合同委員会報告による18,973例の国内リアルワールドデータでも肺葉切除術が主流で1.8%のみ肺全摘術を受けていた。

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