肺がんにおけるネオアジュバント療法、免疫チェックポイント阻害剤を使うメリット・デメリット

従来の周術期における化学療法による治療の目的は、
『ネオアジュバント(術前)治療→腫瘍縮小とそれによる外科切除を容易にすること』
『アジュバント(術後)治療の目的→残存病変の駆逐と再発の防止/遅延』
であった。ではICI時代はどうなのだろうか。
現在、周術期治療として術前 and/or 術後ICI治療の開発が精力的に進んでいる。
今回は術前ICI治療にスポットライトを当て、利点と欠点(不利益)を徒然なるままに…

1. 腫瘍抗原特異的T細胞の多様性

手術前後のICI治療の介入に際して、両者での決定的な違いはICI治療時に存在する腫瘍量となる。ネオアジュバントでICI治療を受けた場合には腫瘍抗原が豊富に存在する条件下でT細胞の活性化が起こり、アジュバントICI治療(つまり手術によって肉眼的に確認可能な腫瘍量はゼロ)と比較して、より多様な腫瘍抗原特異的T細胞が誘導される可能性がある(Versluis JM et al. Nat Med 2020)。
これを支持するエビデンスとして、ネオアジュバントICIの優位性を示唆するような基礎的な知見が複数報告されている → 詳細は「Basic Scienceから深めるがん治療「基礎的な観点から「術前ICI > 術後ICI」を考えてみる(その1)」を参照)

ただし、現時点では臨床的エンドポイント(RFSやDFSなど)の比較を行うためのエビデンスが不足しており、今後のデータ蓄積が必要と思われる。

2. 腫瘍ドレナージリンパ節(Tumor-draining Lymph Node: TDLN)の意義

上述の「腫瘍抗原特異的T細胞の多様性」にも関連するが、ICIはT細胞の抗腫瘍活性を高める治療法ゆえ、これらT細胞がDCによってプライミングを受ける場であるリンパ節を郭清してしまうことが果たしてIO治療において良いのだろうか?という疑問が生じる。実際、ICIの抗腫瘍免疫におけるリンパ節の意義についての報告もある(Fransen MF et al. JCI Insight 2018)。腫瘍ドレナージリンパ節(TDLN)は、外科的な観点から転移有無の判断や予後予測、治療方針決定のために切除(またはサンプリング)されるが、腫瘍特異的リンパ球など免疫細胞が集簇しており、免疫応答の制御に不可欠な臓器でもあるため、がんにおいては”パラドックス”となる役割を担っていると言える。
将来的に、免疫療法の観点からTDLNの切除が再評価され、特に周術期IO治療におけるTDLNの意義について再考が必要となる可能性も十分にあるだろう。腫瘍量の問題に加え、TDLNが存在する状況下でのICI投与(術前IO治療)は、TDLN郭清後の術後IO治療よりも優れているのだろうか?

3. 治療効果判定とバイオマーカー探索

術前IOでは、治療後の手術検体を詳細に調べることで効果判定(例:病理学的評価)が可能であり、また様々な併用療法後の奏効有無が比較的短期間で評価できるため、トランスレーショナル(TR)研究やバイオマーカー探索が可能といった利点もある。

さらには、術前治療後の手術検体の評価によって効果が得られていない場合には、術後治療でのレジメン変更の検討であったり、逆に病理学的完全奏効(pathological CR)が得られた場合の術後治療の計画見直しであったりが可能となるメリットもあるだろう。

4. 全例にメリットがあるか?患者選択が必要か?

IOだけに関わらず、術前治療に起因したAE発現やオペ不可となるリスクは避けなければならない。上述したとおり、術前IOの試験では治療効果の判定やバイオマーカー探索の観点から、様々な薬剤との併用療法の開発が主流となっており、その分だけ毒性リスクが高くなることが懸念される。さらに、術前ICI治療に対するノンレスポンダーにとっては治癒切除が遅れ、進行による疾患増悪のリスクが高まる。また、最近では周術期ICI治療に起因したchronic irAE の懸念(Patrinely JR et al. JAMA Oncol 2021)など、術前ICIによって真にベネフィットが得られる患者のみを選択できるようなバイオマーカーの特定が強く望まれるだろう。

最後に、ICIによる術前治療の利点と欠点(不利益)について、下記に概要をまとめたので、参考にされたい。

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