切除不能なIII期EGFR変異肺がんにPACIFICレジメンを使用すべきか?

背景
肺癌診療ガイドライン2021年版】では切除不能Ⅲ期NSCLCの治療として同時化学放射線療法後に免疫チェックポイント阻害薬による地固め療法を行うよう推奨されているが、EGFR+を含めてドライバー変異陽性例に対する当該レジメン使用可否の記載は無い。
本レジメンのエビデンスとなっているPACIFIC試験では約40例のEGFR+症例がエントリーしていたが、① 試験デザインでは層別化因子ではなかったこと、② サブ解析結果にてEGFR+集団のOS/PFSハザード比は0.97/0.84であったこと、から当該集団に対する有効性の判定は不能と言える(Favre-Finn C et al. J Thorac Oncol 2021)。

[賛成派] III期治療の最優先事項は完治の可能性の最大化である

1. 現状では有効性が無いとは言い難く、エビデンス不足である

PACIFIC試験でのEGFR+症例に対する有効性解析はあくまでサブ解析であり、症例数も不十分であることから、under-powerと言える。
また、再発/IV期との病期の違いや、ICI単剤ではなく同時化学放射線療法(cCRT)とICIとの併用(相乗)効果への期待など、再発/IV期のエビデンスがそのまま当てはまるとは言えない。

2. 変異サブタイプ(Del 19 vs L858R)とICIの有効性

多施設の後ろ向き解析というLimitationはあるものの、USの有名な4施設でICI(約8割が抗PD-1抗体)治療を受けたEGFR+症例のレトロスペクティブな解析報告(Hastings K et al. Ann Oncol 2019)では、L858R(46例)とwild-type(212例)との比較ではORRやOSで統計的有意差が認められなかった。なお、T790M変異の有無や腫瘍PD-L1発現ステータス別の解析も行われたが、これらステータスの違いによる統計的有意差は無かった。
→ 一般的にEGFR+症例ではICIの治療効果が低いとの報告が多いものの、変異サブタイプによってICIの治療効果が異なる可能性がある。変異サブタイプ別のヘテロな特性を理解することで、ICIのベネフィットが期待される。

3. 腫瘍PD-L1とICIの有効性

EGFR-TKI治療後、さらに2レジメン以上の化学療法を終えた症例を対象としてDurvalumab単剤の効果を検証したATLANTIC試験の結果が報告されている(Garassino MC et al, Lung Cancer 2020)。
PD-L1≧25%群におけるEGFR+/ALK+症例(コホート1)の成績はwild-type症例(コホート2)と比較して、ORRは低かったものの(12.2% vs 16.4%)、OS中央値(13.3ヶ月 vs 10.9ヶ月)および2年時OS(40.7% vs 24.2%)であり、長期生存を示唆するデータであった。
この結果から、EGFR変異ステータスの有無に関わらず、腫瘍PD-L1高発現かつ前治療歴の長い症例ではICI治療によるOS延長ベネフィットの期待が示唆されるかもしれない。

どうだろうか。
基礎IOの観点からは、EGFR+症例ではTMBやCD8+TIL浸潤、腫瘍PD-L1発現が低値といった”cold-tumor”の報告も散見されるが、PACIFICレジメンでのcCRTによってImmunogenic Cell Deathの誘導や腫瘍MHC class Iの発現亢進、TILや腫瘍PD-L1発現の増加といった”hot-tumor”への変換も示唆されている。
これら複合的な免疫調整作用によって炎症性の微小環境を誘導し、ICIの地固め療法によるシナジー効果が期待できる。
局所進行ステージⅢの症例で再発した場合、基本的には緩和ケアへと移行してしまう。そのため、この病期における治療の最優先事項である完治の可能性を最大化する目的から、cCRT後に病勢コントロールが得られ、かつ禁忌でない限りはPACIFICレジメンをSoCとして使用すべきかもしれない。

実臨床での使用に向け、今後はLAURA試験(EGFR+症例に対するosimertinibによる地固め)など様々なディスカッションが続くと予想される。

[反対派] リスク・ベネフィットを正確に判断できるだけのデータが揃うまで待つべし!!?

EGFR+症例にwild-typeと同様のPACIFICレジメンの使用を推奨すべきでない根拠

1、EGFR変異陽性例に対する有効性を示すエビデンスがない

PACIFIC試験の中では43例(全体の6%) にてEGFR変異症例が含まれており(29例: Durvalumab群、14例: プラセボ群に割付) 、4年フォローアップ時点でのサブ解析の結果はPFS (HR = 0.84, 95% CI: 0.40-1.75)、OS (HR = 0.97, 95% CI: 0.40-2.33)ともにdurvalumab維持療法の有効性が示されていない。(Faivre-Finn C et al. J Thorac Oncol. 2021

その他、ドライバー変異症例に対するdurvalumab維持療法の意義が検討された報告もいくつかあるが、(ESMO 2021 Abst#1172MOASCO 2021 Abst#8528)いずれも非常に限られた症例数の報告である上に、限定的なベネフィットしか得られていない。

2、安全性の観点から、次治療が限定される可能性も

ICI後のTKI使用においては、AEリスクの増加が懸念される報告がいくつか出ている。

例えば、aPD-1/L1抗体後特に1年以内にosimertinibを開始することで、irAE発現率が増加すること(Schoenfeld AJ et al. Ann Oncol 2019)、ICI抗体が数ヶ月ほど血中に存在し、遅発的なirAEを誘導する可能性があること(Shinno Y et al. JTO Clin Res Rep 2020)などの報告がある。

durvalumab維持療法後のPD症例に、EGFR-TKIを問題なく選択できるのか、AEリスクが高まることで長期的な生存ベネフィットに影響する懸念はないのか…切除不能III期EGFR変異症例における治療シーケンスは慎重に判断する必要があるだろう。

3、新たな治療開発への期待

EGFR変異症例に関しては、化学放射線療法後のosimertinib維持療法の有効性・安全性を検討したLAURA試験が進行中である。CRT併用によるILDへの懸念もあるため、現時点でEGFR-TKIを維持療法として取り入れるべきかどうか答えが出ておらず、LAURA試験の結果が待たれる。

周術期治療に関する記事の中でも書いた通り、ドライバー変異の有無だけでICIかTKIを棲み分けて使うことが正解ではないと個人的には考えているが、現時点では“エビデンス不足”が否めない部分が多く、実臨床においては個々の症例ベースで治療を判断していくことになるのではないか。
今後のデータ次第で益々治療選択が難しくなってくる部分であり、ぜひ投票コーナーや下記コメント欄にて皆様のご意見も共有いただきたい。

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