進行期EGFR変異陽性肺がんの初回治療はosimertinib一択か?(その2)
FLAURA試験の画期的な結果を受け、現在のEGFR変異症例に対する治療にはosimertinibが最も優先される流れとなっている。確かにそのPFS延長効果や脳転移への有効性を考えると、osimertinibの魅力が大きいことは否定できない。
しかしながら、RELAYレジメンの承認により、再び1st/2nd generationのEGFR-TKIの出番が見直されつつあるように思う。
耐性後の治療戦略の難しさ、次治療まで考慮に入れた長期生存の割合、ICIのsequentialな使用における安全性への懸念など、、、考えるべき要素は山ほどあり、これらを全て考慮するとosimertinib一択だとは言い切れないように思う。
ここではベストな治療シーケンスの観点から、今あるエビデンスをもとに改めて考えてみたい。
治療シーケンスを工夫する
FLAURA試験の日本人におけるPFS中央値は、osimertinib群で19.1カ月、標準療法(gefitinib)群13.8カ月と有意差がついていた。一方で、OS中央値はosimertinib群39.3カ月であるのに対し、標準療法群の中央値は未到達、カプランマイヤー曲線が27ヶ月あたりでクロスする結果となった。(@JLCS 2019)これは、標準療法でPDとなっても、2L以降の適切な治療(osimertinibへのcross-overも含む)により長期生存につながったことを意味する。
1st/2nd gen. EGFR-TKIからosimertinibへのsequentialな治療法に関しては、後ろ向き解析として検討された報告がある。
一つは、afatinib後T790Mが陽性であったに対してosimertinibを使用する治療法を検討したreal-worldの後ろ向き観察研究であるGio-Tag試験。この中で、アジア人患者のOS中央値は44.8カ月であり、さらに19delに絞ると45.7カ月という結果となり、afatinibからosimertinibへのつなげることで、長期的にTKI治療を継続できることが示唆された。現在Gio-Tag Japanも進行中である。
また、もう一つのreal-world試験であるUpSwing試験の中でも、afatinibとosimertinibのsequentialな治療について評価しており、ここでもアジア人の19del変異を有する症例に置いてOSが最も長い43.8ヶ月であった。
以上の結果はいずれも後ろ向き解析であるというlimitationはあるものの、osimertinibを2L以降に使うことでTKIを長く使用する治療選択は、特に日本に置いて一つの治療オプションになり得る。現在一次治療としてのafatinibとosimertinibを前向きに比較したPhase II試験(MARIA19-07T)が進行中である。
また、1st/2nd G EGFR-TKIの耐性変異であるT790Mに有効なosimertinibと、osimertinibの耐性変異であるHER2/HER3やC797Sに有効なafatinibを組み合わせることにより、耐性化を遅らせることを目的としたALT試験(WJOG10818L)やYAMATO試験(TORG1939/WJOG12919L)が実施中である。ALT試験に関しては、1年のPFS rate=70.18% (60% CI: 63.9%-75.59%, 95% CI: 54.22%-81.48%)ということで、primary endpointをぎりぎり達成できなかったと報告されているが、有望なシグナルが認められ追跡が続いている。
ただし、EGFR-TKIに対する獲得耐性メカニズムの解析は多数報告があり、複数のメカニズムが併発するheterogeneityの高さも示唆されている。そのため、それぞれの耐性メカニズムを考慮し、耐性を遅らせるための初期治療戦略を考えることには限界があるのかもしれない。
前回の記事からここまでみてきたように、EGFR変異症例に対する治療戦略は、より有効な治療法という観点だけでなく、いかにして耐性化を遅らせるかということまで考える段階にきている。
これから開発が進むにつれ、薬剤の様々な併用や使用の順番を検討することが必要となり、益々治療選択が複雑化していくことが予想される。
基礎研究から臨床研究まで、今後の展開に目が離せない。
=T790Mの壁=
1st/2nd gen. TKI後にosimertinibを使うことでOS延長に期待できることを述べてきたが、ここにはT790M陽性の壁があることを忘れてはならない。現在は1st/2nd gen. EGFR-TKIでPDとなった後、生検によりT790M陽性が確認できなければ、osimertinibは使えないのである。
この問題に関しては、何度も根気強く生検を繰り返すことで、T790Mの陽性率を高めていく試みも報告されている。また一方で、T790M陽性でない症例に対するosimertinibの効果を検討したWJOG12819L試験も進行中である。
現時点では、何度も生検をすることでosimertinibを使用できる確率を高めていくことが重要かもしれないが、将来は1st/2nd gen. EGFR-TKI後にosimertinibが使用できる対象がさらに広がるかもしれない。
一方で、osimertinib以外の治療法を初回に実施し、PD後にT790M陽性が出ずにosimertinibが使えなければ、絶対的に不利になるのか、という疑問も残る。
この疑問を考える上で興味深い論文があったので紹介する。(Haratake et al. JTO CRR. 2020)
osimertinib初回投与によるPFSと、1st/2nd gen. EGFR~TKI・Dacomitinib・erlotinib+angiogenic agentのいずれかに続いてosimertinibまたはchemotherapyを実施した場合の全PFS(PFS1+PFS2)を、T790M陽性率に応じてシミュレーションしている。その結果、erlotinib+angiogenic agentを一次治療として使った場合の全PFSは、T790M陽性率わずか10%でosimertinib先行使用群のPFSを上回ることが分かった。さらに、osimertinibが少し苦手とするL858R変異症例においては、T790M陽性率に関わらず、osimertinib先行使用よりも全PFSの延長が見られた。
あくまでシミュレーションの結果であるが、EGFRの変異の種類によっては、T790Mの壁を恐れずに初回でosimertinib以外を選択するというのもありなのかもしれない。