ドライバー変異陽性肺がんに対するICIの効果:EGFR変異

その1”ではドライバー変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)全般に対する免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の治療効果について紹介した。今回はドライバー変異の中でも特にアジア人の非扁平上皮NSCLC患者で約半数を占めると言われるEGFR変異にフォーカスして論じてみたい。

[ハイライト]

  • 進行期/転移性の既治療例に対するICI単剤の有効性は限定的である。
  • 初回治療におけるICI単剤のエビデンスは乏しいが、限定的な効果を示唆する報告も出ている。
  • TKI後のレジメンとして血管新生阻害薬を併用したICI併用療法が一定の効果を示している。
  • EGFR陽性NSCLCに対するTKI後の治療は現状アンメットニーズである。
  • ICI+αとして様々な薬剤との併用療法の開発が進んでいる。

転移性/進行期EGFR+ NSCLCに対するICIの効果

a) 既治療(ICI単剤):

NSCLCにおけるICIの臨床開発は、初回プラチナ併用療法後の標準治療であったドセタキセル(DTX)を比較対照群として検証が始まった。当時はドライバー変異の有無に関わらず臨床試験への参加登録が可能であったため、後ろ向きのサブ解析という制限はあるものの、CheckMate 057、KEYNOTE-010、POPLAR、OAKという4つの臨床試験でEGFR変異を有する186例をプール解析した結果が報告されている(Lee CK et al. JAMA Oncol 2016)。この中で、wild-typeではICI治療によって有意にOSが改善されたが(HR=0.67, 95%CI: 0.60-0.75, p<0.001)、EGFR変異陽性(EGFR+)症例に関してはDTX群との有意差が認められなかった(HR=1.11, 95%CI: 0.80-1.53, p=0.54)。

b) 未治療(ICI単剤):

上述のような背景からプラチナ併用療法を比較対照群とした初回治療の臨床試験の多くはEGFR+症例を除外しており、第III相試験においてEGFR+ NSCLCに対するICI単剤のエビデンスは乏しい。一方、第I相試験となるがKN-001試験においてTKI既治療例よりも未治療例に対するpembrolizumabの有効性が示唆され(Garon EB et al. Abst#2172 @ WCLC 2015)、さらに第III相のKN-024試験で腫瘍PD-L1≥50%の症例に対するpembrolizumabの有効性が確認された(Reck M et al. NEJM 2016)ことを受け、単施設単アームの第II相試験としてTKI未治療かつPD-L1陽性の患者に対するpembrolizumab単剤の検証が試みられた。しかしながら、期待通りの効果が得らないまま当初25例のエントリー予定が11例の時点で当該試験は途中中止となった(Lisberg A et al. JTO 2018)。本試験では11例中8例(73%)が腫瘍PD-L1≥50%の症例であったものの、ORRは0%であった。また、治療関連有害事象として半年以内に1例ILDの死亡例が出ていることも無視できない。この ILDを含む有害事象や増悪後に次治療へ移行できなくなるリスクなど、TKI治療を先行することで回避できるイベントもあるため*、(少なくともEGFR+症例には)ICIよりもTKIの治療を優先すべき結果と言えるだろう。

c) 未治療(ICI+chemo併用):

では併用療法の開発はどうだろうか?抗PD-L1抗体であるatezolizumabと殺細胞性抗がん剤との併用療法の試験であるIMpower130、IMpower150の試験にはEGFR+症例が含まれており、サブ解析の結果が開示されている。あくまで後ろ向きかつ非層別化因子の解析といった制限はあるが、IMpower150の血管新生阻害剤とICIとを併用した群では殺細胞性抗がん剤+ICIの併用群に比して良好なシグナルが得られた点は特筆すべきだろう。ただし、その後の長期フォローアップの結果(追跡中央期間:39.3カ月)、初期に観察されていたベネフィットの減弱が示唆されている(Nogami N et al. JTO 2022)。さらに中国で行われたORIENT-31試験でも抗PD-1抗体+殺細胞性抗がん剤に血管新生阻害剤を併用した群で同様に良好なシグナルが得られており、血管新生阻害剤の併用ベネフィットにおいて再現性が得られた点は興味深い。ICIに特徴的な効果の持続が得られるかどうかの考察のためには、今後のOSの結果が待たれるところである(Lu S et al. Lancet Oncol 2022)。ちなみにICI+chemoに血管新生阻害剤を併用することによって、なぜICIの効果が期待されるのか?という基礎的な考察に関しては、こちらを参照されたい。

TKI治療後にて現在ICI+chemo併用レジメンとしてCM-722とKN-789、2つの国際多施設共同第III相試験が進行中である。両試験ともに血管新生阻害剤の併用までは検証しておらず、いわゆる”KN-189レジメン”(抗PD-1抗体とPEMベースのプラチナ併用療法)の有効性および安全性を検証している。EGFR+症例に対するICI+chemoレジメンに血管新生阻害剤を併用すべきかどうか、間接的ではあるが更なる考察が得られるものと思われる。一方、日本ではAPPLE(WJOG11218L)試験にてEGFR+を含む患者を対象として、atezolizumab+CBDCA+PEMに血管新生阻害剤の上乗せ有無を検証した第III相試験が進行中である。上述したIMpower150試験はPTXベースの化学療法であったが、これら進行中の3つの試験はPEM併用であることからPTXとは異なる副作用プロファイルという点も注目だろう。さらに上述のORIENT-31と同様、前向き試験のデザインであるため、EGFR+症例における血管新生阻害剤の併用意義に関しても、より頑健なエビデンスが得られることになるだろう。

まとめ

転移性/進行期EGFR+ NSCLCに対するICIの効果については、TKI治療後の併用療法を中心に開発が進められているものの、依然としてアンメットな部分と言える。今後、殺細胞性抗がん剤や血管新生阻害剤との併用だけでなく、腫瘍微小環境の基礎的な解析結果に基づいた併用戦略が望まれる。一昔前はEGFRやALKなどドライバー変異陽性であればTKI治療が適応となり、ドライバー変異陰性(wild-type)症例よりも長期生存が期待できると言われていた。しかしながら、ICIの登場によって限られた症例ではあるものの、wild-type症例ではcureも望める時代となった。まさに両者の生存期間を逆転しうる現象がICI治療によってもたらされつつある。EGFR+ NSCLC患者さんにもICI治療の最大の特徴であるtail plateauが得られるような日が来ることを切に期待している。
-ドライバー変異陽性の患者さんにもcureを!-

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