EGFR変異陽性腫瘍に対するTKIの効果とICIの効果の関連は?
治療薬開発が次々と進む肺がんの治療選択は、遺伝子変異陽性症例には分子標的薬、陰性症例には免疫チェックポイント阻害剤(ICI)、という簡単な話ではなくなってきている。
そこで今回は、分子標的薬が効く集団とICIが効く集団は完全に異なるのかという答えのない疑問を、EGFR遺伝子変異を例に考えてみたい。
- 遺伝子変異の観点から
分子標的薬(今回はEGFR-TKI)が高い効果を示す腫瘍は、いわゆるドライバー遺伝子変異(EGFR)への依存度が高いことである。一方、ICIが効果を示す腫瘍は、T細胞に認識されやすい免疫原性が高い抗原を持っている必要があるが、そのような抗原を産生する遺伝子変異は、ドライバー変異ではなくパッセンジャー変異がメインであることが報告されている(Schumacher TN et al. Science 2015)。
- PD-L1発現の観点から
EGFR変異陽性症例の中でも、PD-L1の発現レベルが高いほど、TKIの効果が減弱することが示唆されている(Akihiro Y et al. Transl Lung Cancer Res. 2021)。このデータに関連した基礎データを探してみると、EGFR変異陽性の中でもPD-L1高発現症例にTP53の共変異が見られること(Saw et al. EJC 2023)、そしてTP53の共変異がTKIの効果に負の効果を与えることが報告されている(Liu R et al. Nat Med 2022)。つまり、EGFR変異症例の中でも、PD-L1低発現症例ほどEGFR変異への依存度が高く、逆にPD-L1高発現症例ではICIに有利な腫瘍環境になっているのかもしれない。
- T細胞の活性化の観点から
ESMO 2022において、T細胞の活性化が、ICIの効果だけでなくEGFR-TKIの効果にも重要であることを示唆するデータが出ていた(Mouri A et al. Abst#1078P @ ESMO 2022)。ICIの奏効のバイオマーカーのひとつであるTh1/17 CD4+ T細胞が豊富な腫瘍ほど、TKIの効果も持続的であったとの報告である。疲弊が進んでいない元気なT細胞(特にCD4+T細胞)が、ICIだけでなくTKIの効果に重要であるという新しい視点であり興味深い。
以上の観点から、TKIとICIに重要なファクターを図にまとめた。
TKIが効く集団とICIが効く集団が異なる集団であることを示唆する臨床データ(Zhau et al. Front. Oncol. 2021)もあるが、共変異や免疫状態の観点から、そう単純ではなさそうだ。
EGFR変異陽性例の中でも、TKIとICIのどちらの効果が期待できるのかを正しく評価するためには、今後更なる追及が必要だろう。