Countdown to 2024 - 2023年のTop5 CQを振り返る
1、手術か放射線か?治療法の境界が曖昧に
薬物療法、特にICIの開発が早期がんにも導入され、手術・放射線・薬物療法という3本柱の境界が曖昧になってきた。
例えば、手術が第一選択とされるI期の肺がんでも、定位放射線療法にICIを組み合わせることで手術と同等かそれ以上の効果が期待できそうな結果が出てきた(I-SABR @ WCLC 2023)。また、これまで完全切除が難しいとされてきたIII期multi-station N2の症例においても、ICI治療を組み合わせることで手術の治療選択肢も見えてきた(CM-77T @ ESMO 2023)。
⭐︎今後は病期を問わず、全身制御が得意な薬物治療、局所制御が得意な手術・放射線治療、それぞれの特徴を活かした、多職種チーム(MDT:Multi-Disciplinary Team)による集学的治療(MDT:Multi-Disciplinary Therapy)が一層望まれる時代になっていくと予想される。
2、エンドポイントの設定は適切か?
進行期で有効性が認められた既承認薬をより早期にも導入すべく臨床試験を計画する際、短期的なエンドポイント(奏効率やDFS、PFS)を主要評価項目に設定することが果たして正しいだろうか?早期がんでは、より多くの患者で寛解が得られる可能性があるからこそ、本来ならば、治療の順番や介入のタイミングを重視してOSベネフィットの最大化という長期的な視点で評価すべきだろう。
⭐︎TKIやICIなどの新規薬剤が様々なフェーズで使えるようになるにつれ、今後治療シーケンスの組み合わせが更に多様化してゆくとともに、OS延長のためのベストな戦略を考えることが大切になってくる。また同時に、患者さんの人生観(EBMに対するNarrative-based Medicine/Value-based Practice)というサイエンス以外の観点も考慮すると、究極的には最適な治療選択は患者さん毎に違ってくるのではなかろうか。
3、オリゴ再発に対する最適な治療戦略は?
術前・術後にTKIやICIを使うケースが増え、再発までの時間が延びたことに加え、再発のパターンも従来とは変わってくることが予想される。特に完全切除後のオリゴ再発も一定の割合で出てくるはずである。その時に、みなしIV期の治療としてすぐに全身治療となる薬物療法を開始するのか、それとも局所療法で制御するのか、という疑問が出てくる。また薬物療法を実施する場合、周術期治療で一度使用した薬剤を再度使うことで効果が期待できるのか、といった進行期治療における再発とはシチュエーションも異なり、疑問は尽きない。
⭐︎周術期におけるTKIやICIが承認されたばかりであるため、今後のエビデンス蓄積が待たれる。特に周術期セッティングでは切除検体だけでなく、リキッドバイオプシーの応用など今後の解析技術の進歩とともに新たな知見の集積に期待が高まる。
4、局所&全身免疫の見直し
ICIが登場した当時は腫瘍局所でのチェックポイント分子の影響が重要視されてきたが、その後、がん免疫サイクルの全身性免疫の役割が明らかになってきた。さらには所属リンパ節が抗腫瘍免疫応答に重要な役割を果たしている知見も多く出てきたが、最近になってそのリンパ節が腫瘍免疫において諸刃の剣となり得る報告も出てきた。
今年後半の一大トピックと言えば、がん免疫サイクルの10年ぶりのアップデートだろう。腫瘍局所における三次リンパ様構造の存在など、局所免疫の重要性がより詳細にフォーカスされている。
⭐︎ICI奏効のバイオマーカー探索を含め、今後は局所と全身の両方の免疫状態をよりマクロな視点で評価していくことが必要になってくるだろう。
5、ADCはキードラッグになる⁉︎
今年のESMOで大注目を浴び、つい先日にFDAで迅速承認となった尿路上皮がんにおけるADC+ICI(Enfortumab vedotin+Pembrolizumab)。併用による有望な結果もさることながら、従来の化学療法と比較して骨髄抑制の毒性が低いこともポイントだ。
⭐︎ターゲット分子(抗体)やペイロード(薬剤)の選択など、さらなる工夫と改善が必要かもしれないが、化学療法で懸念される抗腫瘍免疫の抑制作用が少なく、ICIとの新たな併用パートナーとして十分に期待される薬剤だろう。今後の臨床試験の動向に注目したい。