進行期EGFR変異陽性肺がんの初回治療はosimertinib一択か?(その1)
FLAURA試験の画期的な結果を受け、現在のEGFR変異症例に対する治療にはosimertinibが最も優先される流れとなっている。確かにそのPFS延長効果や脳転移への有効性を考えると、osimertinibの魅力が大きいことは否定できない。
しかし、RELAYレジメンの承認により、再び1st/2nd generationのEGFR-TKIの出番が見直されつつあるように思う。
耐性後の治療戦略の難しさ、次治療まで考慮に入れた長期生存の割合、ICIのsequentialな使用における安全性への懸念など、、、考えるべき要素は山ほどあり、これらを全て考慮するとosimertinib一択だとは言い切れないように思う。
ここでは併用の戦略の可能性を中心に、今あるエビデンスをもとに改めて考えてみたい。
一次治療から併用療法を使う
- EGFR-TKI+chemotherapy
1st/2nd G EGFR-TKIに関しては、NEJ009及び海外での同様の報告から、PFS延長効果が見られており、現在の肺癌診療ガイドライン2021年版の中でも、[推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:A,合意率:79%(推奨率:96%)]としてosimertinibの次に記載されている。ただし、NEJ009におけるPFS2に差が出ていないこと、また併用に伴う毒性の発現割合が有意に増加していることから、chemotherapyを使うリスクベネフィットのバランスを考える必要はあるかもしれない。
更に、治験の中でのT790Mの検査率及び次治療のosimertinibへの移行率が低いというlimitationもある。一方で、現在osimertinibに対するchemotherapy上乗せ効果を検討する第3相試験FLAURA2試験が進行中であり、その結果が待たれる。
- EGFR-TKI+antiangiogenic therapy
肺癌診療ガイドライン2021年版の中で、既にerlotinib+ramucirumab併用療法が、[推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:A,合意率:86%(推奨率:90%)]として記載されている。承認の根拠となったRELAY試験においては未だOSの結果が出ておらず、毒性や薬価が無視できない課題も残されている。しかしながら、特に(exon19delと比較して)osimertinibの効果が少し下がる傾向にあるL858Rに関しては、効果が期待される声も出てきているようだ。
L858Rに関しては、osimertinibとerlotinib+ramucirumab併用療法を比較する第三相試験(REVOL858R trial(WJOG14420L))も進行中であり、標準治療が変わる可能性もあるのではないか。
また、osimertinibとosimertinib+ramucirumab併用療法を比較した第2相試験(TORG1833(日本)、NCT03909334)も実施されている。
=抗VEGF抗体と肺臓炎=
WJOG9717試験(EGFR遺伝子変異陽性非扁平上皮非小細胞肺癌に対する、初回化学療法としてのosimertinib+bevacizumabとosimertinibを比較したランダム化第Ⅱ相試験)では、Primary endpointであるPFSは達成されなかったが、bevacizumab併用群にて有意に肺臓炎の発現割合が低下する興味深い結果が得られている。
-その他の戦略
①治療前から潜在する耐性クローンを狙う
EGFR-TKI治療前からの少数亜集団の存在に関しては、T790M変異が例として挙げられる。大部分のT790M変異アレル頻度は0.001%から0.1%との報告もあり、治療のターゲットとすべきかどうかの判断は難しい。(Watanabe et al. Clin Cancer Res 2015)
今年のJSMO 2022において、治療前のddPCRによるT790M検出の有無とEGFR-TKIの効果を検討した発表が出ていた。まだ文献化されていないため、詳細に触れることは避けたいが、特に19del変異に微量なT790Mが併発している場合には、1st/2nd G EGFR-TKIよりもosimertinibでより耐性化を遅らせる可能性を示唆する内容の発表であった。
T790Mに限らず、同じくEGFR-TKI耐性メカニズムのひとつであるMET amplification等の変異を有するクローンに関しても、治療前の段階から潜在しているとの報告があり(Turke et al. Cancer Cell 2010)、治療ターゲットとする意義も含め初回治療戦略が検討されるべきだろう。
②薬剤耐性を維持する細胞(DTC=Drug Tolerance Cell)を狙う
薬剤耐性変異を獲得するまでのメカニズムとして、「可逆的に」薬剤感受性が低下し、殆ど増殖もせずに生存状態を保っている細胞の存在が示唆されており、その生存維持の過程で細胞に獲得耐性変異が入り「不可逆的な」薬剤耐性に至ることが明らかになってきた。そこで、完全に耐性に至る前の段階であるDTCを除去することで、耐性化を抑えようとする試みが多数なされている。(Leonce et al. Mol Cancer Res 2022)DTCの発現や維持には複数のメカニズムが関与しており、DTCを対象とした治療戦略の多くはまだ非臨床データの段階であるが、既に臨床試験に進んでいるものもいくつかある。
例えば、EGFRやHER3と関連し、細胞の生存維持を担っている分子AXLは、DTCの維持およびosimertinib耐性細胞の出現を誘導していることが示唆されている。そこで現在Phase I試験(ONO-7475-03)として、EGFR変異陽性NSCLCを対象に、AXL阻害薬ONO-7475とosimertinibの併用投与による非盲検非対照試験が実施されている。忍容性確認パートで安全性が確認され、拡大パートに移行している。
③新規メカニズムの薬剤
今後注目されるであろう新しい薬剤としては、EGFRとMETの二重特異性抗体であるamivantamabが挙げられる。既にamivantamabと第三世代EGFR-TKIであるlazertinibの併用療法の効果が検討されており、osimertinib耐性・化学療法未治療患者群でのORRは36%、未治療群でのORRは100%であった。(CHRYSALIS試験@ESMO 2020)この結果を受け、現在EGFR変異症例に対する1st L治療としてのosimertinib単剤、lazertinib単剤、及びamivantamab+lazertinib併用療法の比較試験(第3相MARIPOSA試験)が進行中であり、新たなメカニズムの薬剤として結果が期待される。