術後アジュバントとしての免疫チェックポイント阻害剤のバイオマーカー:腫瘍のPDーL1の意義は?
進行期ICI治療においてひとつのバイオマーカーとなっている腫瘍のPD-L1。術後アジュバントICIが 実臨床で使われる日が近づいている今、改めて腫瘍のPD-L1発現の意義を考えてみたい。
(*ここで のICIは、抗PD-1/PD-L1抗体にフォーカスする。)
術後アジュバントICI治療の場合、PD-L1発現は原発巣で測るが、治療開始時には原発巣が手術により取り除かれている、という点が状況を複雑にしている。 メインの腫瘍を取り切った後のアジュバントICI治療のターゲットはいったいどこなのか、原発巣のPD- L1発現をバイオマーカーと考えてよいのだろうか。
-原発巣
上記のとおり、術後アジュバント腫瘍の最大の特徴は、治療ターゲットのはずの腫瘍が取り除かれていることである。これを基礎的な免疫の観点から解釈すると、cancer-immunity cycleにおいて抗PD- 1/PD-L1抗体が働く腫瘍局所のstep7がなくなった状態と想定される。しかしながら実際には、術後アジュバントICI治療は、臨床試験において既に有望な結果を出している。(ex. IMpower-010, KEYNOTE-091)つまり、原発巣を取り切ってもなお抗PD-1/PD-L1抗体が機能し得る場所があることを示唆している。
-全身の微小残存病変(MRD)
術後アジュバントICI治療のターゲットとしてもう一つ考えられるのがMRDである。腫瘍局所ではなく、全身を巡る目には見えない小さな腫瘍をターゲットとすることで、遠隔での再発をより強く抑える効果が期待される。残念ながら肺がんにおいては、術後アジュバントICIの遠隔転移に対する効果の明確なエビデンスはまだ出ていないが、術後ICIの開発が先行しているmelanomaにおいては、副次的エンドポイントとして【distant metastasis-free survival(DMFS)】が設定され、すでにその改善が高く評価されている。(OncLiveの記事より)肺がんにおける術後再発の中で、特に遠隔転移の症例の方が局所再発と比較して予後が悪いことは知られている。(Torok et al. Clin Lung Cancer 2017, Wang et al. Front Oncol 2020)そのため、遠隔転移の制御は肺がんにおける予後延長のカギであり、術後アジュバ ントICIの効果の解析が待たれる。
ではMRDに対するICIの効果は、原発巣のPD-L1発現で予測できるのか。現時点では残念ながら原発巣とMRDのPD-L1発現の相関は報告が見当たらず、腫瘍のPD-L1がバイオマーカーになり得るかという問いに対する答えは今すぐには出せないのが現状である。
-リンパ節
もう一つICIの効果において非常に重要な役割を担っているのが、リンパ節(特にTumor-draining lymphnodes=TDLNs)である。TDLNにおけるDC上のPD-L1とT細胞上のPD-1の相互作用こそが抗腫瘍免疫に大きく影響し、ICI治療のメインのターゲットになり得るという報告もある。つまり、これまで ICIがメインに作用すると考えられてきた腫瘍局所ではなくpriming相 (cancer-immunity cycleにおけるstep3) の重要性が示唆されている。(Dammeijer et al. Cancer Cell 2020)この観点からすると、TDLNにおけるPD-L1発現こそが、術後アジュバントICIの効果を予測する有望なバイオマーカーのひとつと言えるかもしれない。
以上のことから、術後アジュバントICIを考える上では、MRDやリンパ節における免疫状態を知る必要があり、腫瘍のPD-L1発現を効果予測に使うことには、限界があるのかもしれない。
=T cell dysfunction =
ICIの効果を考える上で考えるべきもう一つの大事な要素は、T細胞の疲弊度である。T細胞は抗原刺激を受け続けることでdysfunctionの状態になり、PD-1をはじめとする抑制分子の発現が上昇する。early-dysfunctionの段階ではT細胞の分化は可逆的であり、ICIによる再活性化が最も期待できる。一方、抗原刺激が長期にわたって持続することでlate- dysfunctionへと更に分化が進行し、最終的には再活性化不能な状態となる。(Schietinger et al. Immunity 2016)つまり、ICIの効果を予測するためには、腫瘍やTDLNにいるT細胞の分化がどの段階にあるか、ということも評価する必要があるのではないか。