どうなる?肺がんのコンパニオン診断
肺がん治療薬の選択肢が増えるに伴い、コンパニオン診断薬(CDx)システムもますます複雑化してきている。ここでは肺がんのCDxをめぐる課題や最新の動きについてまとめてみたい。
同じ治療標的に複数のCDxという壁
まずはドライバー検査に目を向けてみると、現在の遺伝子検査体制(過去の記事参照)を見て分かる通り、ターゲットは同じ遺伝子変異でありながら、薬剤ごとに紐づいているCDxが異なるという自体が起きている。しかし薬剤を開発するごとにCDxの開発も必要となると、新規薬剤とCDxの承認のタイミングにズレが生じ得る。同じ治療標的バイオマーカーの検査に複数の検査システムが存在し、さらに紐づいている薬剤が違うという事態は、実臨床においても非常に使いづらいことが容易に想像できる。
この混乱した現状の解決策として、現在「医薬品横断的CDx」という考え方が進んでいる。概要としては、個々のCDxの使用目的はバイオマーカー検出であり、特定の医薬品の使用判断の補助という意味合いはなくなる。
また、新たな医薬品を開発する場合でも、既承認の検査システムで患者選択が可能であることを説明可能な場合には、CDxを開発する必要はないというものである。先日既に厚生労働省より通知も出されており、今後の実臨床へのインパクトが気になるところである。
同様の問題はPD-L1検査にも当てはまる。現在承認されている複数のICIに紐づく形で、複数のIHC検査試薬が別々に開発されている状況であり、医薬品横断的CDxにより今後の検査体制の変化が予想される。しかし、検査抗体によって少しずつPD-L1発現の評価法が異なる点が、特定のドライバー変異を標的とした遺伝子検査よりも状況を複雑にすることが懸念される。
*横断的CDxにはもう一つ「臓器」横断的CDxという概念もある。主要ながん種での同等性試験、その他のがん種での臨床検体比較などにより、稀少がんのCDx開発にメリットがあると考えられている。
単一遺伝子検査がいくつも必要という壁
上述の通り一つ一つの治療標的のCDxの体制が整ってきたが、次々に治療標的が見つかっている肺がんにおいては、治療標的毎に別々のCDx検査を実施することは効率が悪い。そのため、ここ2-3年でMultiplex CDxが急速に浸透してきている。費用やTAT、検体採取などのハードルにより、全施設での実施はまだまだ現実的ではないが、今後もMultiplex CDxの重要性が高まることは間違いない。
現時点におけるバイオマーカー検査の主体はIV期の症例であるが、TKIやICIの開発が進んでいる周術期においても、今後ドライバー遺伝子変異やPD-L1発現の検査が必要になってくることが予想される。stageによって、承認薬の種類の豊富さや患者さんの状態は変わってくるため、単一検査とマルチ検査を使い分ける場面も出てくるかもしれない。その際には、NGSによるプロファイリング検査に関して、1人1回のみ算定可能という制限が問題となるのではないか。プロファイリング検査に関しては、また別の記事で取り上げたい。
そもそもCDxの概念は、薬剤の奏効が期待できる症例を正しく選択し、より適切な薬剤を届けることが目的であるはずである。それが薬剤の浸透やアクセスの障壁となっては本末転倒ではないか。もちろん、検査の制限を緩くすることであまりに偽陰性や偽陽性が多くなることは避けるべきであるが、薬剤使用の前提となる検査の部分は、ある程度シンプルさや利便性を追求すべきであると個人的には考える。今後は横断的CDxによる検査の簡便化やマルチ検査による効率化が進んでいくことに期待したい。