肺がんにおけるネオアジュバント療法、免疫チェックポイント阻害剤を使うメリット・デメリット(その2)

ネオアジュバント/アジュバント療法は、多くの固形がんで治癒の可能性を高めることを目的に行われ、ホルモン療法(乳がんや前立腺がんなど)、放射線療法、化学療法、そして最近登場した分子標的療法や免疫療法など、多くの治療モダリティーが存在する。

今後、益々多くのエビデンスが登場するであろう免疫チェックポイント阻害剤(ICI)時代におけるネオアジュバント療法のベネフィットについて、俯瞰的な観点から纏めてみた。

1. 術前 vs 術後療法の違い

両者には治療時期と治療目的という2つの大きな違いがある。アジュバント治療は、微小転移を除去して治癒率を高めることを目的として手術(= メインの治療)の後に行われるのに対して、ネオアジュバント治療は、がんのダウンステージングおよび播種したがん細胞の駆逐によって手術の範囲を小さくする目的にて手術の前に行われる(下表)。さらには手術によって術後合併症や回復遅延をきたす場合には術後アジュバント療法の機会を失うリスクがあるが、ネオアジュバント療法を行うことでより多くの患者が全身療法を受けることができる利点も考えられるだろう。

2. 周術期ICIの承認状況

これまでに複数のがん腫にて周術期ICI治療がFDA承認へと至っている(下表)。詳細は割愛するが、少なくとも6つのがん腫において、ネオアジュバント(2つ)とアジュバント(8つ)治療としてaCTLA-4抗体(1つ)およびaPD-1/L1抗体(9つ)が米国では使用可能となっている。進行期治療と同様、メラノーマに対するIpiが2015年に初めて周術期でもICI治療薬として承認となった。その後、2020年まではメラノーマに限定されていたが、2021年以降はメラノーマ以外のがん腫への展開だけでなく、ネオアジュバント領域でのICI治療も適応として追加されており、周術期治療としてのICIへの期待が窺われる。

日本でも既に下表赤字の4つが承認へと至っており、米国で承認されている残りの適応についても随時追加されていくと予想される。

3. ネオアジュバントICIの役割と利点、課題

“その1”でも言及したが、ネオアジュバントICIはアジュバントICIと比較して以下の利点がある。
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1) より多くの腫瘍抗原に対する免疫応答を誘導可能(Blank CU et al. Nat Med 2018, Topalian SL et al. Science 2020

2) 手術による免疫抑制の影響を受ける前の免疫状態ゆえ、よりICIの効果が期待できる。術後のコルチコイド分泌によってM2マクロファージやTregの減少やナイーブT細胞のアポトーシス増加が起こりうる(Bakos O et al. J Immunother Cancer 2018)。

3) リンパ系の構造が損なわれていないため、免疫細胞と腫瘍微小環境との相互作用が促進される。

4) アジュバント(1年間)に比べて投与回数が少なく、患者負担など医療経済的なベネフィットがある。

5) 薬剤への曝露期間が短いため、薬剤耐性を生じる可能性が低い。

6) 治療コンプライアンスの改善

7) バイオマーカー開発や作用機序の理解が可能
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また、in vitro研究によって、ネオアジュバントICI治療は、複数臓器へのCD8+ T細胞の浸潤を増加させたり(Liu J et al. Cancer Discov 2016)、T細胞のクローナリティを高めたり(Schalper KA et al. Nat Med 2019)と、アジュバントICI以上に優れた活性を示すことから再発を抑制して生存率の改善が期待できる。

一方、アジュバントの状況と比較して免疫状態がより正常に近いネオアジュバントの条件では、ICI治療によってirAE発現率がより高くなる可能性が懸念される。治療医にとって、高用量ステロイドが必要となるようなirAEイベントの発現率や病勢進行、がん腫によって~15%の割合で生じ得るpseudo-PDに起因した手術遅延となるリスクは主な懸念事項となるだろう。幸いなことに、IFCT-1601 IONESCO試験(9%のG5が認められたものの、ICIではなく合併症に関連する可能性が高いとの判断)を除いて、これまでにNSCLCでの複数のネオアジュバントICIの安全性とfeasibilityが示唆されている。安全性についてはCM-816だけでなく、その他のongoingの第III相試験の結果も待たれるところである。

また、実臨床での使用に際し、以下を含むいくつかのClinical Questionが挙げられる。
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1) 理想的な投与回数(2サイクル?3または4サイクル?)と投与スケジュール(Q2W?Q3W?)

2) 最適なレジメン選択(= ICI単剤?または併用療法?)

3) 術後補助療法/地固め療法の役割は?

4) non-responderの早期発見
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上記の課題は全てネオアジュバントICI研究においてRECIST(放射線学/臨床的評価)と病理学的評価との一貫性が得られないという問題とも関連している。手術前に腫瘍の大きさとネオアジュバント治療への反応性を評価する方法として、FDG PET/CT(Tao X et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2020)やctDNA(Anagnostou V et al. Cancer Res 2019)を含む幾つかの報告があるが、実臨床への応用はまだ先となるだろう。

4. ネオアジュバントICIにおける最適なOSサロゲートは?

がんの臨床試験においてOSはゴールドスタンダードとなる主要評価項目である一方、ネオアジュバント試験の評価においては実用的ではない。これまでネオアジュバント化学療法の試験では、MPR(切除検体の腫瘍生存率が10%未満)やpCR(生存腫瘍が0%)といった病理学的指標がOSのサロゲートエンドポイントとして用いられきたが、ネオアジュバントIO試験では未だ評価段階であり、これらが免疫療法でもOSのサロゲートとなり得るかは不明である。

最近、NSCLCでの免疫療法に対する新たな病理学的評価の基準としてirPRC(immune-related Pathological Response Criteria;Cottrell TR et al. Ann Oncol 2018)が提案され、現在は他がん種でのネオアジュバントICIでの検体を含めた共通の病理学的評価基準としての活用に向けた取り組みも行われている(Stein JE et al. Clin Cancer Res 2020)。

5. 結語に変えて

術後アジュバントとは異なり、ネオアジュバントのアプローチは治療前後のペアサンプルが得られることで、バイオマーカー探索を始めとしたユニークな機会も提供可能であるため、これらの評価によって、免疫逃避メカニズムなど微小環境の理解が深まり、ネオアジュバントIOの効果を高めるための新たな併用療法の開発へとつながることが期待される。

しかしながら、アジュバントよりも高い効果が期待できるといったベネフィットがある一方で、検査の課題であったり手術不能となる懸念であったりというリスクをどこまで許容できるかという課題がある。

長期予後とchronic irAEなどの安全性評価、バイオマーカーの発見とその検証は、ネオアジュバント免疫療法の最適なアプローチのために極めて重要となるだろう。

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