ドライバー変異陽性肺がんに対するICIの効果:Overview

現在非小細胞肺がん(NSCLC)では”ヘテロながん腫”として、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤(ICI)が使用可能となっている。ドライバー遺伝子変異陽性例に対する第一選択薬は分子標的治療が基本だが、KRAS変異などのように、ICIの奏効、つまりlong tailが期待できる変異に対しては、分子標的薬かICIどちらを初回治療薬として選択するかというclinical questionがある。また、例えば初回TKI治療後のシークエンスとして選択されるICI治療の効果もclinical questionだろう。

そこで今回は”その1”として、ドライバー変異陽性NSCLCに対するICIの効果に関するエビデンスについてオーバービューしたい。別記事として、具合にドライバー変異遺伝子毎にフォーカスしてみたい。

進行期肺がんにおけるICIの効果

IMMUNOTARGETというグローバルの多施設レジストリー研究(n=551)の報告では、KRAS以外のドライバー変異を有する症例ICIの効果は限定的であったと結論付けられている(Mazieres J et al. Ann Oncol 2019)。患者背景として、全体の約80%が3次治療までにICI治療を受け、95%は2次治療以降にICI治療を受けていたことから、分子標的薬が既に承認されているドライバー変異症例に対しては分子標的治療が先行したと推察される。この中で、症例数が30-40例程度と少ないものの、BRAFとMET変異に関しては、ICIの効果が一定の割合で期待できそうなシグナルが得られた。そのため、全てのドライバー変異陽性例において一様にICIの効果が期待できないという訳ではなさそうである。ただし、KRAS変異をはじめ、BRAFやMETに関しては本研究当時(データ収集期間:2017年5月から2018年4月)分子標的治療薬が承認されていなかったこともあり、ICI治療が先行されたケースもあると考えられる。今後これら変異に関しても、分子標的治療薬が先行して使用された場合のICIの治療効果についてはclinical questionと言えるかもしれない。

ICIの効果予測因子とドライバー変異との関連

いわゆるドライバー遺伝子変異陰性(wild-type)例では、PD-L1、TMB、CD8+ T細胞密度をはじめ、ICI(aPD-l/L1抗体)の効果予測因子の中でも精力的に研究が進められている(Topalian SL et al. Nat Rev Cancer 2016)。ではこれら因子がドライバー変異陽性例においても同様にバイオマーカーとなり得るのだろうか。NSCLC 4,064例(Smoker 3,153例、ドライバー変異陽性 871例を含む)の解析の結果、EGFR (p<0.001)、ALK (p<0.001)、ROS1 (p=0.03)といったドライバー変異を有する場合、有意にTMBが低い傾向であった。また、これらドライバー変異を有する症例でも喫煙歴がある症例では、喫煙歴のない症例に比べてTMBが高い傾向にあった(Singal G et al. JAMA 2019)。同様に1,586例の患者検体におけるPD-L1発現ステータスを調べた結果、上述のTMBが比較的低いドライバー変異を有する検体ではPD-L1発現がwild-typeに比べて低い傾向にあった(Schoenfeld AJ et al. Ann Oncol 2020)。逆にKRASやMET変異を有する症例ではPD-L1発現がwild-typeよりも高いことが示唆された。

ドライバー変異 vs. ICIの効果予測因子

最近、Flatiron Health社のデータベースに登録されている米国のがん患者40,903人の電子カルテから詳細な変異プロファイル、治療シーケンス、転帰について大規模コンピュータ解析を実施した結果が報告された(Liu R et al. Nat Med 2022)。本解析ではNSCLC(n=10,650)を含む8つのがん腫(n=40,903)において、それぞれ初回治療として免疫療法、化学療法、分子標的療法を受けた場合の患者の生存を予測する458の変異を系統的に同定している。進行期NSCLCで免疫療法を受けた患者4,072例の遺伝子と治療成績との相関(gene-treatment interaction)解析により、弱いながらもEGFR陽性はOSおよびPFSともに予後不良、KRAS陽性は予後良好な変異としての相関が示唆された。 余談ではあるが、本報告では治療効果に影響を与える変異-変異の相互作用の特徴も明らかにしており、例えばEGFR変異にKRASやTP53といった共変異が存在するとTKIの治療効果にネガティブに影響を及ぼすことが示唆された。また、KRAS変異ではNF1などICIの治療効果にポジティブに影響する共変異、KEAP1やSTK11などネガティブに影響する共変異の存在が示唆されている。これら解析結果から、将来的にはアンカー(メイン)の変異に加えて共変異のステータスまで考慮した治療戦略の必要性を示しているのかもしれない。

ドライバー変異陽性NSCLCに対するICIの効果(まとめ)

現状ではKRAS変異のようなICIの効果が期待できるもの、BRAFやMET変異のように比較的ICIの効果が期待できるもの、EGFRやALK、HER2やROS1、RETのようにICIの効果が期待できない変異、と大きく3つのカテゴリーに分類することが可能である。EGFR遺伝子変異に関しては、現状clinical questionとなっている初回TKI治療後のICIの効果について検証すべく第III相試験が複数進行中であり、その結果が待たれる。一方で希少ドライバー遺伝子変異に関しては、臨床試験による検証は難しく、上述した文献(Liu R et al. Nat Med 2022)のようなリアルワールドの大規模データを網羅的に解析することで、プレシジョン医療実現のための知見や仮説、リソースが得られ、さらには実臨床への迅速な活用も期待されるところである。

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