KRASG12C変異陽性肺がんに対する治療戦略 -ICI併用?それともシークエンス?
2021年(日本では2022年)、遂にKRASG12C変異陽性NSCLCに対する分子標的阻害薬が承認されたが、単剤治療の効果はEGFRやALK阻害薬とは異なり限定的なようである。
現在、初回治療で他薬剤との併用療法の開発が試みられているが、今回はICIとの併用について現状のエビデンスとともに考えてみたい。
1. KRASG12C阻害薬単独の治療成績と現状
現在KRASG12C阻害剤のsotorasibとadagrasibの2剤の開発が先行している。どちらの薬剤もNSCLCの既治療例に対するpivotal試験の成績は非常に類似しており、ORRは約40%、PFS中央値6-7カ月、OS中央値12-13カ月という結果である。
EGFRやALK陽性例では初回治療で分子標的薬が使用可能だが、現状KRASG12C阻害剤(国内ではsotorasibのみ承認)は二次治療以降で使用可能となっており、初回治療にはICI±chemoが使われている(肺癌診療ガイドライン2022年版)。
2. KRASG12C陽性例の特徴と腫瘍免疫微小環境独の治療成績と現状
KRASG12C変異症例では喫煙者の割合が高く、TMBやPD-L1発現が比較的高値との報告がある(Lindsay CR et al. Lung Cancer 2021, Garassino MC et al. JTO 2022, Tamiya Y et al. Lung Cancer 2023)。いわゆる”inflamed”な腫瘍免疫微小環境の特徴を有しており、ICIの高い効果が期待される(Landre T et al. Cancer Immunol Immunother 2022)。
また、KRASG12C阻害剤によって腫瘍組織内へのCTL浸潤の増加や抗原提示能亢進など、ICIとの併用に追い風となるような微小環境の誘導が促進されることが基礎研究の結果から報告されている(Canon J et al. Nat 2019, Briere DM et al. Mol Cancer Ther 2021)。
3. ICIとの併用は”perfect cocktail”なのか?
KRASG12C阻害剤+ICIの併用は有効性の観点から”perfect cocktail”と期待され、CodeBreaK 100/101でsotorasib+ICIの併用療法が検証された。しかしながら、当該試験において肝毒性増加のシグナルが示唆された(Li B et al. Abst# OA03.06 @ WCLC 2022)。本試験では両薬剤の同時併用に加え、Lead-in(先にsotorasib単剤で治療を開始し、途中からICIをadd-on)によって肝毒性の発現が半減したものの、併用によるORRは29%と期待を大きく下回り、両薬剤の併用戦略・開発は頓挫する形となった。 その後、肝毒性のシグナルはclass-effect(KRASG12C阻害剤すべてに共通)なのか、molecule-specific(sotorasibに特異的)なのかという議論とともにadagrasib+ICIの併用を検証したKRYSTAL-1/-7の結果が後に発表された(Jänne PA et al. Abst#LBA4 @ ESMO-IO 2022)。結論として、肝毒性を含む安全性において懸念されるシグナルは無かったものの、依然フォローアップ期間が短く、併用による有効性ベネフィットの評価は現時点で時期尚早である。
4. 併用か?それともシークエンスか?
Cureを目指すならばICIに軍配が上がるだろう。PD-L1高発現例ではKRASG12C阻害剤、ICIともにORRが40%程度と拮抗しており、単剤治療の場合どちらを優先して選択すべきか現状はclinical questionだろう。また、PD-L1高発現 = inflamedな腫瘍微小環境である可能性が示唆され、そういった症例のみ両薬剤のシナジー効果が期待できるという報告もあり(Mugarza E et al. Sci Adv 2022)、当該症例では併用かシークエンスか悩ましいところだろう。KRASG12C阻害剤+ICI併用によるシナジー効果の評価に関しては、第III相のKRYSTAL-7試験(NCT04613596)の結果が待たれる。当該試験では現在の標準治療であるICI±chemoとの使い分けに関しても一定の答えが出てくるものと期待される。
一方、至適な初回治療レジメン選択に資するバイオマーカー(例:STK11やKEAP1などの共変異ステータス)や脳転移を有する症例の治療など、現時点ではデータが限られており、今後エビデンス構築を含めて課題と言える部分だろう。
また、上述のとおり有効性のみならず安全性やコストも重要なポイントとなる。本来ならばICI単剤で長期奏効が得られるようなケースにおいて、併用療法を行ったため重篤な有害事象の発現へと至り、治療継続が困難となっては本末転倒である。EGFRやALKとは異なり、KRASG12C阻害剤またはICI単独治療が奏効せずに早期PDとなってしまい、後治療へ移行不可となるリスクも勘案すると、現在のICI単剤 vs. ICI+chemoと共通するclinical questionと言えるのかもしれない。