腫瘍の転移にも免疫細胞の活性化にも重要なリンパ節、郭清はすべき?

一般的にがんのリンパ節転移は予後不良因子であることが知られているが、それでもなおリンパ節郭清の必要性や意義は疑問視されている。特に、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による治療の台頭に伴い、免疫細胞の貯蔵庫でありプライミングの場でもあるリンパ節を取り除くことの是非が問わている。
そこで今回は、リンパ節(特に腫瘍ドレナージリンパ節:TDLN)を郭清することのメリットとデメリットの両方の観点からエビデンスをまとめてみた。

リンパ節郭清については、最新のレビューの中でもメリットとデメリットの両観点から考察できるため、答えを出すことは難しい (du Bois H et al. Sci Immunol 2021, Reticker-Flynn NE and Engleman EG. Trends Cell Biol 2023)。

以前の記事でも書いたように、リンパ節は抗腫瘍活性を発揮するT細胞の貯蔵庫であり、更には抗PD-(L)1抗体の作用点としても腫瘍局所以上の重要性があることが示唆されている。
更に、仮にリンパ節に転移があったとしても、ICIによる術前治療の介入がリンパ節転移巣に効果を示す場合があったり、現在はがん細胞が誘発するリンパ節(特にTDLN)のリモデリングを逆転させる新規治療アプローチの開発も進んでおり (Li YL and Hung WC. J Biomed Sci 2022)、転移リンパ節に対する郭清以外の治療介入が期待できる。

一方、ひとたびリンパ節に転移が起きると、多臓器への遠隔転移を促進する作用を持つという報告 (Reticker-Flynn NE et al. Cell 2022)や、本来リンパ節が担うはずのT細胞の活性化や分化が認められなくなるという報告(Rahim MK et al. Cell 2023)もある。

リンパ節をめぐってがん細胞と免疫細胞とのせめぎ合いが起きている、といったところだろうか。
どちらが優勢かによって、リンパ節を郭清すべきかどうかの判断は変わってくるだろう。

臨床的な観点では、リンパ節転移陰性の早期腫瘍において再発予防目的のリンパ節郭清を実施する意義に関するエビデンスは十分ではなく、患者さんにとっては不必要な郭清による侵襲性やQOL低下のリスクの方が大きくなる場合があるかもしれない。一方で、リンパ節に潜在的な転移がある懸念も捨てきれず、リンパ節郭清を省略することは、長期的な安全性(再発リスク?)が証明されていない現状では推奨することは難しそうだ。

更に、リンパ節郭清により腫瘍に近いTDLNを除去したとしても、その周囲のリンパ節が代替機能を担う可能性(Baldran-Groves and L and Melief J. Nat Rev Immunol 2024)や、術前にICIを実施して十分なプライミングを誘発しておくことで、リンパ節郭清後も十分な抗腫瘍効果を示すという考え方もできる。特に後者は、術前にICIを施行するメリットにも関連してくるだろう。

現状分かっていることを並べてみたが、結局のところ個々の患者さんにどっちが良いのかを知る基準がない以上は、SOCに則って”疑わしきは罰する”(=リンパ節は郭清する)方針にならざるを得ないのだろうか?分からないからこそ、術前ICIによってリンパ節にストックされている(かもしれない)T細胞を文字通り"priming & releasing"した後に手術で郭清、という順番が理想的なのかもしれない。

リンパ節郭清の是非

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