術後アジュバント療法、最適なエンドポイントは? 

がん治療においては、いわゆる5生率が長年ひとつの指標とされてきた。しかしながら、腫瘍を切除した術後療法においては、寛解の可能性がある症例も含まれているため、OS評価にはかなりの時間と症例数を要するという課題がある。昨今話題のTKIやIOの薬剤開発が周術期に参入してきたことで、この術後補助療法における治療効果評価の難しさが浮き彫りになってきていると感じる。

本当にOSは薬剤評価のゴールドスタンダードだろうか?

DFSから分かること

DFSは“Disease-Free”の名の通り疾患(目に見える腫瘍)がない状態で生きている(Survival)期間である。つまりDFSを評価することで、その薬剤が再発をどのくらい先延ばしにできるか、ということをダイレクトに評価できる(もちろんこの中には寛解した症例も含まれている点に注意が必要である)。また、再発をどこまでも先延ばしにできれば寛解であり、DFSは長期追跡により寛解率も評価できる(余談だが、間接的には後治療への移行率からも寛解率をある程度推察することが可能である)。とりわけ進行期治療において既にエビデンスが確立されつつあるICIに関しては、周術期治療においても腫瘍根絶(=寛解)の可能性が期待できる期待が高く、DFSが一つの指標になるかもしれない。

一方、TKIはどうだろうか。ADAURAの衝撃的なDFSにより一時は寛解への期待もあったが、3年のosimertinib服用期間終了後、K-M曲線は降下傾向にある。進行期では根治が難しいと言われているTKI(→「なぜ分子標的薬は腫瘍を根絶できないのか」参照)だが、周術期でもやはりTKIの抗腫瘍効果には限界がありそうだ。そうなると気になってくるのが後治療である。

アジュバントTKI療法ではOS評価がより重要に?

OSは最もシンプルな評価指標であると同時に後治療の効果が大きく反映されるパラメータであるため、純粋に治験薬の効果だけを見ることができない。特に日本においては、国民皆保険制度のもと承認薬が比較的自由かつ何度も使えるため、後治療に最新の治療を受けることができる。FLAURAにおける日本人解析の結果がよい例だろう。(日本人サブ解析は学会発表のみだが、Ramalingam SS et al. NEJM 2020のSupplにあるAsianデータでも同様の傾向は見て取れる。)

しかしこれを裏返して解釈すると、 後治療まで含めた治療シーケンス全体としての効果を見ることができるということになる。

術後再発の懸念がある以上、「有効な薬剤を本当に前倒しで使うのがベストなのか?」ということを評価すべきであり、再発以降の後治療まで反映できるOSが適した指標ではないだろうか。

先ほどのADAURAの例で考えれば、切り札となる有効なosimertinibを再発後まで取っておく方が結果的にOSが延長する可能性もある。特にosimertinibの耐性メカニズムは複雑であり、早期にosimertinibを使うことで耐性クローンの出現を早めることへの懸念は大きい。DFSであれだけの結果が出ていながら、実際には「OSの結果を見るまでは」という声も聞こえてくる(本試験は既に盲検化が解除されているため、OSデータの解釈にも注意が必要であろう)。

多くの薬剤がIV期・周術期ともに開発を進めている中、病期をまたいで使える薬剤の選択肢も増えてきた。そのため、今後はただ薬剤の有効性を示すだけではなく、有効な薬剤を使う“タイミング”が重要視されるべきである。その点においては、OSは引き続きゴールドスタンダードのエンドポイントと言えるだろう。

Evidence-Based Medicine vs. Value-Based Medicine

最後に…臨床においては、サイエンスがすべてではない。いくら生存率が延びるからと言って、それがベストな薬剤とはもちろん言い切れない。どの薬剤をどのタイミングで使うか、選択肢が多様化している中、患者さんが何を大切にしているかという価値観を尊重しながら納得いく治療を進められることが理想だろう。

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