Countdown to 2026 - 2025年の肺癌トピックスを振り返る

1、どうする周術期IO治療
術前/術後ICI治療が実臨床に導入されてから3年弱となるが、その適応範囲の議論が続いている。特にICIの特性上、”術後よりも術前”という考えが主流となってきており、①術前ICIの適応範囲、②術後ICI介入の判断、が主な論点になっている。
"とりあえずICI+chemo"の時代が到来?!
①に関しては、病期に応じた切除可能域の検討や、患者選択のための臨床所見およびバイオマーカー探索が進んでいる。術前ICIは、pCR率の向上ひいては寛解率の向上が期待される一方、従来の重要な局所療法となる手術施行のチャンスを逃す懸念があり、そのリスク・ベネフィットのバランスが治療判断を難しくしている。
しかしながら、この問題の一番の解決方法は、誰にNAC-IOをやるべきかを明確にすることではなく、”とりあえずICI+chemoをやってから考える”という柔軟な対応だと考える。いい例が本年のESMOで報告されたMDT-BRIDGE試験だろう(Reck M et al. Abst#LBA65@ESMO 2025)。ASCO 2025で発表されたInTRist試験(Wang Y et al. Abst#8012@ASCO 2025)において、切除不能症例を対象に標準療法となるCRT→ICI(PACIFIC類似レジメン)の前に、2サイクルのICI+chemoを施行するという試験である。第II相試験ではあるが、最初からPACIFICレジメンを使うよりも優れた効果が期待できるシグナルが得られている。本年後半には複数の類似レジメンで同様な検証が行われ、共通して良好な結果が再現されている点は強調しておきたい。
術後ICIの継続は本当に必要か?!
②に関しては、既報データを見ると確かにpCRが得られなかった症例を中心に術後ICI継続メリットのある集団が一定数存在しそうである。一方、①pCR/non-pCRはあくまで予後因子であること(もちろんICI治療の奏効サロゲートでもあり得る)、②non-pCRでも必ず再発するわけではない = 術後ICI不要/無駄、そして③術後ICI継続有無に関わらず再発をきたすケース = ICI無効、の3つが入り混じっている。
本年のASCOおよびESMOでは、それぞれCM-816とKN-671の5年フォローアップのデータが発表となった。両試験でのOS曲線のHRが非常に類似していたことから、術後継続 vs 再発後IV期に準じたレジメンによるre-challengeどちらが良いかという議論が出てきそうである。術後ICI継続に資するバイオマーカーが現時点で不在であるからこそ、サンドイッチレジメンを選択し、non-pCR症例を中心に術後もICI投与を継続する or 術後に無駄な治療となるリスクを懸念して再発症例のみに絞って治療再開する、どちらも選択肢として間違ってはなさそうである。ここは患者毎の希望や価値観、SDM(意思決定の共有)が必要となる部分であろう。
最後に、1)手術とRTいずれの局所療法にも行けなかった場合(MDT-BRIDGEでは約5%)の対応、2)ICI+chemo後のCRTによる日本人(東アジア人)での安全性、などが残された課題となるだろうか。
2、EGFR:Osi単剤一択は終焉?
本年はEGFR変異陽性NSCLCに対する治療が大きく進歩した。まず切除不能III期に対するCRT後の地固め療法としてのOsi(LAURAレジメン)が承認された。加えて、切除可能例には術後療法としてADAURA、進行期の初回治療としてFLAURA2(Osi+chemo)と適応の拡大が続いた。
一方、TKIに加えて二重特異性抗体のAmivantamabも承認となり、シーケンスを含めてEGFR変異陽性例に対する治療選択が一気に煩雑になってきた。さらに年末にはAmivantamabの皮下注製剤も承認となり、今後の治療選択にどのように影響するか気になるところである(後述の4参照)。
またICI同様、術前TKIの開発も進んでいる。しかしながら、腫瘍細胞の根絶の限界とも言えるTKIの最大の弱点が、本年ASCOで発表のあったNeoADAURA試験(He J et al. JCO 2025)の結果から示唆された。ICIのようにpCR/MPRの劇的な改善はTKIでは認められず、術前治療としてのTKIの意義再考が問われる。今後、当該セッティングにおいてTKIが実臨床にどこまで、そしてどのように入ってくるのか注目したい。
3、HER2:ADCかTKIか?
進行期NSCLCにおいて、個別化治療が再び加速している。そのひとつが、HER2陽性症例に対するTKI(ZongertinibとSevabertinib)の登場だ。いずれも早期フェーズの開発において高い奏効率が認められている。現在HER2陽性症例には、ICIレジメンやT-Dxdが既に承認されているが、TKIの臨床的な有用性(経口薬であること、脳転移にも効果が期待できること、ADCよりもAE管理が比較的容易であること)も相まって、今後TKIファーストに向けた流れは必至と言える。現在、初回治療を対象に上記2剤の第III相試験が進行中であり、その結果が待たれる。
余談だが、これらTKIはTKDドメインの変異に対して高い奏効率を示したものの、HER2-ADCの前治療歴がある症例では次治療TKIの奏効率が低下する可能性が示唆された点は興味深い。今後は、ADCかTKIかという治療選択に加え、変異サブタイプによって両者の至適シーケンスの探索なども議論になっていくと予想される。
4、バイオは皮下注の時代に?!
師走に入り、Amivantamabの皮下注(製品名:リブロファズ)が肺がん領域で国内初かつ唯一の皮下投与製剤として承認された。従来の点滴薬ライブリバントの投与時間は2-4時間かかるため、皮下注によって5-10分程度まで短縮されれば医療機関にとっても患者にとっても時短となり、大きなアドバンテージとなる。加えて、皮下投与ではインフュージョンリアクションの発現リスクも静脈注射に比して1/5程度まで低減されるといったベネフィットもある。
現在はICIやADCの皮下注アプリケーション開発も進んでいる。がん治療は副作用軽減薬の進歩や医療体制の整備、さらには医療経済の圧迫懸念などもあって、入院から外来(通院)中心の医療へと移行が進んでいく方向にある。皮下注製剤はこういった時代の潮流にマッチしており、そのニーズは今後高まっていくものと思われる。特に術後セッティングや進行期での維持(単剤)療法をメインに皮下注が普及していく可能性は高いが、日本の医療提供体制(看護師による対応の可否)や外来腫瘍化学療法診療料(現時点で皮下注は加算の対象外)など、レギュラトリーサイエンスの観点で乗り越えるべき課題があると思われる。
5、Bispecificが次世代薬の主役に?!
二重特異性抗体の標的分子として、今後は免疫チェックポイント分子+αに加え、CD3を介したT細胞と腫瘍細胞との近接誘導を狙ったBiTEなど、二重特異性抗体の開発が益々オンコロジー領域で活発になっていくと予想される。
言わずもがな、昨年WCLC 2024にてHARMONi-2試験の発表はインパクト大だったが、本年もHARMONi-6 (ESMO)、HARMONi-A (SITC)、HARMONi (WCLC)と3つの第III相試験でIvonescimab(PD-1/VEGF)が立て続けにポジティブなシグナルが報告された。
NSCLCだけでなく、SCLCではBiTEとなるTarlatamab(CD3/DLL3)が3L(DeLLphi-301)から2L(DeLLphi-304)へと、よりupfrontの処方に向けて着実に開発が進んでおり、進展型SCLCのキードラッグとして初回治療での開発に期待が高まっている。
また、Amivantamab(EGFR/c-MET)はその作用機序からADCC/ADCP活性による抗腫瘍効果の期待もあり、tail plateau(cure)が期待されている。その他、Iza-Brenのように二重特異性抗体+ADCといった薬剤の開発もスタートしており、次世代ADCとしてパラダイムシフトが起こる可能性に期待したい。
6、mRNAワクチン開発の行方は?!
現在、個別化mRNAがんワクチンが開発されており、術後アジュバントICI単独の治療効果を改善する可能性が早期フェーズ試験にて示唆されている。一方、完全テーラーメイドとなるため、製造コストや作製まで時間がかかるといった実臨床の応用に向けた課題もある。
本年のESMOおよびNature (Grippin AJ et al. Nature 2025)では、個別化mRNAワクチンの代わりにSARS-CoV-2 mRNAワクチンを併用することでICIの治療効果が改善したという報告があった。現時点では後ろ向き研究ではあるものの、これまでインフルエンザワクチンなど非腫瘍関連抗原を用いた免疫のブーストおよびICIに対する感受性の亢進を示唆する報告も複数あり、期待は膨らむ。今後、無作為化比較試験も計画されており、完全テーラーメイド vs. off-the-shelfの議論を含め、ワクチン併用の開発動向は気になるところである。

