がん細胞と免疫細胞との出会いの重要性:がん細胞根絶への第一歩?

治療介入によって一見根絶されたかのようながん細胞、なぜ長い時間を経て再発してくるのだろうか。最近出た興味深い報告(Goddard ET et al. Cancer Cell 2024)では、休眠状態の“disseminated tumor cell(DTC)”に着目し、長期間にわたり免疫細胞の監視を逃れる理由を考察している。

文献の中では、T細胞の疲弊などの免疫側の要因を否定、またMHC-1発現低下などのがん細胞側の要因だけでも説明がつかないことを示している。そして、主に「相対的希少性」、すなわちDTCとそれを認識する可能性のあるT細胞との間の相互作用が制限されてしまうことよる免疫回避を突き止めた。がん細胞と免疫細胞の出会いの可能性が少なすぎるというわけだ。実際、ワクチンや養子免疫療法により、ネオ抗原特異的T細胞を増やすことで、用量依存的にDTCのクリアランス率が高まることも証明している。

残る問題は、DTCを「根絶」する方法は未だ示されていないことだ。これは、DTCの残存が、T細胞との出会いの確率以外の要因(宿主の免疫環境やがん細胞側の遺伝子や代謝の変化)に一部依存している可能性も考えられる。その場合には、更にICIなどの薬物療法が介入する余地もあるかもしれない。また、がん種や臓器による免疫環境の違いも影響してくることが予想されるため、まだまだ検討事項は多いだろう。

ここからは想像の域を出ないが、T細胞とがん細胞との出会いの確率、という観点で考えると、免疫に感知されずに成長を始めるごく初期段階のがん細胞や術後に重要視されるMRDに対するアプローチにも水平展開して考えることができそうだ(Philip M & Schietinger A. Nat Rev Immunol . 2022)。

また、個人的に気になるのは、以前の記事の中で分子標的薬では腫瘍が根絶されない要因として触れた“drug tolerant cell (DTC)”の存在との関連だ(略語が紛らわしいので、前者はpersister細胞とも呼ばれることを反映して“DTPC”と呼ぶことにする)。DTPCは、薬剤プレッシャーから逃れるために遺伝子や代謝などを変化させているため、そのメカニズムに応じた標的治療が開発中である(e.g. AXL阻害剤)。しかしDTPCとT細胞が出会う確率を高めることで、DTPCの根絶が期待できるケースもあるのだろうか。

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