EGFR変異陽性肺がんに対する化学療法の意義は?:周術期から進行期まで

進行期肺がんにおけるEGFR変異症例に対しては、TKIが揺るがぬ第一選択薬となっており、最近はそこに免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の効果や使いどころの議論が入ってきた。この状況下、化学療法の効果について改めて見直される機会は少ない。

しかし、周術期におけるADAURAレジメンが承認となり、化学療法実施の有無が実臨床での判断に委ねられるようになった今、EGFR変異症例に対する化学療法の効果を考える必要がありそうだ。

術後の化学療法は必要ない?

EGFR変異症例に対する術後の化学療法に関しては、後ろ向き解析のデータが報告されている(Tsutani et al. J Thorac Cardiovasc Surg 2022)。これは、EGFR野生型、変異型それぞれの症例に関して、傾向スコアマッチング後に、術後の化学療法実施の有無によるRFSを比較したものである。その結果、高リスク(pT1c/T2aまたはリンパ管侵襲陽性)Stage Iの肺腺がんにおいては、EGFR変異の有無によって術後の化学療法のメリットに明らかな差が見られた。(EGFR野生型で見られた術後の化学療法の効果が、EGFR変異症例においてはほとんど見られなかった。 化学療法 vs. 無治療における5-year RFS:HR=1.29 @EGFRm,  0.27@EGFR WT)

同様に、StageII-IIIの肺腺がんに関しても、後ろ向き解析の結果が発表されている。マッチング前後いずれにおいても、EGFR野生型症例では、術後の化学療法による再発抑制傾向が見られたのに対し、EGFR変異症例では、術後の化学療法の実施に関わらず再発率・再発スピードはほぼ同じ傾向が見られている(WCLC 2022 Abst.#EP.02.01-017)。

Prospectiveな解析結果ではなく、症例数も数十例程度のデータであるというlimitationはあるものの、いずれも日本からの報告であり、現時点での治療選択の参考になりそうだ。

ちなみにADAURA試験は、術後の化学療法の有無が層別化因子ではなかったために、Stageが進むほど化学療法を選択する割合が高くなっており、化学療法の効果の正確な評価は難しい。(Wu YL et al. JTO 2022

現時点では、EGFR変異症例に対する術後化学療法のメリットは依然としてcontroversialであるものの、手術という一大イベントが終わったばかりの患者さんにとっては化学療法フリーのレジメンの方が負担が少ないことを考えると、今後EGFR変異症例に対しては術後化学療法の積極的な使用は避けられるかもしれない。
また、別記事(免疫療法時代における化学療法の役割は?)でも書いたが、化学療法中の再発やAEにより、その後のosimertinibのチャンスを逃してしまう懸念がある。さらに、早期のプラチナ製剤の使用により、再発後のプラチナ併用の選択肢に制限が出てくるケースもあると考えられ、周術期における化学療法の使い方は悩ましい。

EGFR変異症例における化学療法の出番は?

今までのIV期のエビデンスや、上記のような周術期の報告を勘案すると、EGFR変異腫瘍に対しては最初に化学療法を使うメリットよりもデメリットが上回る可能性がある。しかしながら、EGFR-TKI耐性後はどうだろうか。EGFR変異細胞が集まったクローナリティの高い初期の腫瘍に対して、EGFR-TKI耐性後は、EGFR-TKI感受性細胞の消失と様々な耐性株の出現により、不均一性が高まっていると考えられる。実際、osimertinib耐性後の腫瘍は、複数の耐性メカニズムが混在していることが知られており(Roper et al. Cell Reports Medicine 2020)、治療開発が難航している印象だ。ここからは想像の域を超えないが、このような耐性後の腫瘍に対しては、ターゲットを絞らない化学療法によっていったん不均一性を下げ(=リセット)、その後TKIを再投与する、という戦略も考えられるのではないだろうか。

探してみると、osmertinibの後に化学療法を挟んで再度osimertinibを使う、という興味深い試験が海外で実施中のようである(OCELO試験:NCT04335292)。結果が出るのはまだ先のようであり、EGFR変異症例の多い日本においては、Real Worldでの使用経験の方が先にデータが集まりそうであるが、いずれにしても結果が気になるところである。

EGFR変異症例に関しては、EGFR-TKIという画期的な一次治療薬がある一方、周術期・進行期ともに2次治療以降の治療選択が難しい。
今後まだまだ検討の余地がある課題であり、化学療法の使いどころもそのひとつだろう。

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